児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

海賊の島

 

海賊の島

海賊の島

 

 母親に甘やかされて育ったデブのゴードンは、いじめられっこで友だちもいない。そのゴードンの前に、痩せてみすぼらしく、しかしいつも夢のようなことをいうシーラという女の子があらわれた。シーラの言葉に誘われ、ゴードンは宝探しの船(実はイカダ)を作ることになる。行動を始めるゴードンを母は心配するが、父は誇りに思ってくれる。しかし遊びは、シーラのいとこで不良のロットが老人から盗んだ金を海賊の島に埋めるに及んで、本当の宝の争奪戦と化していく! 『ぼくらのジャングル街』のシリーズ作品。

チョコレート・アンダーグラウンド

 

チョコレート・アンダーグラウンド

チョコレート・アンダーグラウンド

 

 まさかの事件がおきた! 選挙で健全健康党が勝利してチョコレート禁止法案が可決されたのだ。国民の健康を守るために甘いものは禁止。隠し持とうとしてもチョコレート探査機で摘発されてしまう。チョコレート大好きなハントリーとスマッショーはがっかりした、だが、簡単にあきらめられない。何とかしてチョコを手に入れたい。なじみのお菓子やバビおばさんの倉庫に残っていた古い在庫にカカオや砂糖を見つけ、古本屋ブレイスさんからチョコ製法の本を写させてもらい、試行錯誤の末についにチョコレート製作を成功させる。合言葉を決め、信頼できる友だちへの密売を開始。さらに古い防空壕を改造して地下チョコバーをつくった。だが、同級生のフランキーは健全健康党少年部(少年団)のリーダーで二人に目を光らせる。ついに合言葉ばばれてバビおばさんとスマッショーは逮捕されてしまった。偶然難を逃れたハントリーはブレイズさんと共に反撃のチャンスを狙う。一部の反撃ではダメだが、全員が立ち上がれば倒せるはず! チョコレート禁止法案というナンセンスともいえるけれども、ある意味ありそうなアイディア一本で、禁酒法時代を彷彿とさせるイメージを描き出し、それに少年たちが挑戦するところがなんとも楽しい。最後に「謝辞とあとがき」として、これがいかにも本当の事件を記したかのようなまとめをつけているところも笑える。仕掛けはわかるのに、それを気にせずに楽しめるエンターテイメントに仕上がっている。

あたしが乗った列車は進む

 

 もうすぐ13歳の「あたし」は列車に乗っている。カリフォルニア州からイリノイ州に向かって移動しているのだ。お目付け役として鉄道職員のドロシアが「あたし」を見張ってる。読み進めていくと主人公のママは、ドラッグ中毒死んで、おばあちゃんにあずけられ、そのおばあちゃんも死んだためにあったこともない大叔父さんにあずけられるための旅だと徐々にわかってくる。親切な売店のニールや乗客のカルロス。そして乗り合わせたボーイスカウトの一団のテンダーチャンクスとの淡い恋。車中で迎えた13歳の誕生日。早々に持っていたお金を食べ物に使い果たしてしまい、食べ物が買えないが打ち明けられない。思いつきで車内カフェの注文取りでチップを稼いだり、ボーイスカウトたちと賭けトランプをしたりしてしたたかに頑張る。勝ち気で、周りを頼らないはずの「あたし」だが、ニールやカルロス、そしてドロシアさえ自分に心を寄せてくれることに気付いていく。常に不安にさいなまれたママやおばあちゃんとの生活とこれからの未来への不安。だが、自分の力を信じて進もうと決意する。読んでいて特に切なかったのは、「わたし」が食べ物を買うお金が無くなったのに、それをだれにも言えない不安を抱えるところであり救いは、最後にそれをニールに打ち明けるところだった。現在の日本でもそうだが、子どもたちには、いやすべての人が、安心して食べることのできる世の中であって欲しい。

おひめさまになったワニ

 

 コーラ姫が生まれて、王さまもおきさきさまも大喜び。でも、姫が立派な女王になるにはしっかりしつけなければ、と考えます。姫にはお世話がかりがつけられ、一日3回もお風呂に入らなければならなくなりました。おきさきさまは、姫に毎日難しい本を読ませて勉強をさせ、王さまは体を鍛えるために毎日なわとびの特訓です。犬を飼いたいという願いもかなえてもらえません。とうとう姫はがまんができなくなってなづけおやの妖精に手紙を書きました。するとなんとみどりのワニがやってきます。ワニは、コーラ姫のかわりになってあげるから遊びに行ってもいいと言ってくれました。コーラ姫は大喜びで遊びにでかけ、木登りをしたり秘密基地をつくってたっぷり遊びました。一方ワニは、お世話係をお風呂に放り込んだり、おきさきさまのところで大暴れしてインクをまき散らし気絶させ、王さまも脅かしてぐるぐるまきにしばりあげてしまいます。お城に戻ったコーラ姫は、3人を助けますが、同時に今までのような窮屈な生活はもう嫌だと、きちんと言って、子どもらしい生活を取り戻しめでたしめでたし。こういう展開になるだろうなぁ、という物語ではあるけれど、いかにもまじめそうなコーラ姫の自由へのあこがれや、逆にいかにも自由なワニの悪気のないズウズウシサが魅力。挿絵のかわいらしさもあり、物語を読み始めたこたちに喜ばれそうです。

アーモンド

 

アーモンド

アーモンド

 

 著者のデビュー作で、韓国で第10回チャンビ青少年文学賞受賞作。偏桃体(アーモンドという意味)に異常があって恐怖や感情が理解できないソン・ユンジェが主人公だ。他の人間と同じ反応ができないためにいじめられるユンジュを心配して、母親は普通の人間のふるまい方を懸命に教え、祖母もユンジュをかわいがってくれた。だが、通り魔殺人事件にあり、祖母は殺され母は意識不明になってしまう。母親の古本屋の店の入ったビルのオーナー、ジウ博士が保護者となってくれてユンジュは一人暮らしをしながら学校生活を続けた。そんな折、彼は行方不明になった息子の身代わりをたのまれて、瀕死のその子の母親に面会する。そして実は見つかっていたその息子ゴニが偶然に同じ学校に転校してきた。幼い頃からすさんだ生活を強いられてきたゴニは、みんなに恐れられる少年になっていたが、ユンジュには恐怖という感情が理解できない。激しくつっかかってきたゴニに淡々と対応するユンジュにゴニは、しだいに気抜けし、彼への興味を示し始めた。そのころ、ユンジュはドラと出会う。走ることが大好きで、特に群れはしないけれど孤立しているわけでもない不思議な雰囲気のある少女に、ユンジュは惹きつけられる。だが、学校や父親に反発したゴニは、家を出て行方不明になってしまった。ユンジュはゴニを見つけ出すために動き始める! 感情がない息子を心配する母親。感情が理解できないからこそ、憎しみや偽善も理解できないユンジュ。理解できなくても、母親やシム博士の助言に従ってまじめに自分のできることをしていくユンジュ。見ているうちに、異常なのは誰? という思いにかられてくる。ちょっと都合がよすぎる?という部分がないわけではないが、ユンジュ、ゴニ、ドラのいずれも個性的だが魅力的であることが読者の共感をよんでいるのだろう。

王の祭り

 

王の祭り

王の祭り

  • 作者:小川 英子
  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: 単行本
 

16世紀、日本は戦国時代を終わらせるべく織田信長が全国の統一に向かっていた。一方、イングランドではエリザベス女王が自分の結婚相手をなかなか決めないことで外交を巧みに進めていた。本来なら出会うはずがない二人が、妖精の魔法で出会うというファンタジー。とはいえ主人公はウィルことウィリアム。やり手の手袋屋の父の下で、夢見がちでボーっとしていることで友人や親からも認めてもらえない男の子だ。祖母から聞いた妖精を捕まえる魔法を試し、偶然に妖精パックとのつながりができる。女王様が来ている街の祭りを見たいと願い、パックの策略で、女王の手袋を作るために父と街に向かった際に、旅一座のピンチヒッターとして御前劇に出ることになったあげく女王暗殺の陰謀に巻き込まれ、妖精の馬車で女王、劇団のハムネットと3人で日本にたどり着き、信長と出会うことになるのだ。一方日本では旅一座の娘、お国が父とは違う新しい芸をしたいと願いながら、戦乱の中で生きぬいていた。折からの本能寺の変の勃発。女王やウィルたちは、逃げてお国たち一座に匿われることになる。どうすればイギリスに帰れるのか? パックは“願い花”を見つければよいという。だが、ハムネットには隠された顔があり、一行に危機が! 仕掛けが細かく、読んでいるうちに、この時代の有名人に気が付く趣向でなかなか楽しいが、それぞれの登場人物は、16世紀の価値観の中でリアルに生きている人物というより現在の私たちのような感じがする。その分読みやすいけれども、ファンタジーとしての異次元の迫力がないのは残念。歴史好きの中学生には読みやすいし、これをきっかけにして本当の16世紀について思いをはせる契機になればよいと思う。 

廉太郎ノオト(2020課題図書 高校生の部)

 

廉太郎ノオト (単行本)

廉太郎ノオト (単行本)

  • 作者:谷津 矢車
  • 発売日: 2019/09/06
  • メディア: 単行本
 

 わずか24歳で夭折した瀧廉太郎をモデルとした伝記小説、と言えるのだろうが、同時にまだ西洋音楽になじみのない世界で、どうやってそれを理解し、受容していくかという日本の音楽界の黎明期の物語でもある。音楽が大好きだったが結核の為に早死にした姉の影響を受けた廉太郎は、音楽を志すが、まだ世間の音楽への理解はない。それでも最年少で東京音楽学校に入学。そこでの試行錯誤や、さまざまな人物との出会いの中でも、バイオリンの天才少女幸田幸(幸田露伴の妹)との音楽をめぐる対決は、ちょっと『蜜蜂と遠雷』風! 日本ならではの音楽をどう創るか、貧しい子どもたちも喜んで口ずさむ曲をどう創るか、などのチャレンジ過程がおもしろい。 作者は1986年生まれ。若いのにきっちり描く手腕に驚嘆! 今後が楽しみです。