児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

水と氷の科学

 

 小学校4年生のあきらと幼稚園児のまり子の兄弟に、お母さんが水の不思議を家の中の実例を使いながら語ってくれるという科学読み物。特別な実験道具がなくても身近に観察できる水という存在。人間は体内に水分が多いことが体温調整に役立っていること、汗の気化熱による体温減少などが、加熱するとお鍋はすぐ熱くなっても水は急に熱くならないことなどを使って説明される。ちなみに、あっと思ったのが、お風呂を沸かすと熱いお湯が上に行くのに、池の氷はなぜ上から張るの?ということ。なんと水は4度を下回ると膨張して軽くなるとのこと(そういえば、氷は水より軽いし、凍ると水道管が割れるなと納得)。そのせいで上から凍るのだが、この特殊な性質のおかげで、とても助かっているなとちょっと感動しました。

星の使者 ガリレオ・ガリレイ

 

星の使者―ガリレオ・ガリレイ

星の使者―ガリレオ・ガリレイ

 

 本の美しさとしては素晴らしいと思うが、実際のガリレオの生涯を伝えるにしてはやや簡易で、ある程度ガリレオがどんな人かを知っている人のための本であるようにおもわれる。例えばガリレオが生まれた年は、シェイクスピアの生年で、ミケランジェロの没年とあるが、シャイクスピアやミケランジェロが誰だかわからなければその意味はつかめない。「振り子の等時性1583年」など業績が語られるが、それはどういうことなのかは説明がない。せめて巻末に注があっても良かったように思われる。地動説問題に焦点を当てているが、それ以外は項目だけが語られる感じ。ガリレオに関する本を複数見る中の一冊として楽しむのが良いかと思われる。

ゴーストダンス

 

ゴーストダンス

ゴーストダンス

 

北の国は荒らされ、そこに住むラップ人たちは居場所を失いつつあった。彼らは魔女に助けを求めるが、すでに死の間際にいる魔女はそれを拒否する。見習いの少女シンジビズは彼らの訴えに心を動かすが、魔女はシンジビスが行くべきところは自分の妹のところであり、そこでちゃんと魔女になるようにと遺言して死んだ。だが、シンジビズは遺言に背き、不法な皇帝のもとに向かう。皇帝のもとにはイカサマ魔法使いのジェキンズが、弟子のクリスチャンを悪魔に仕立て、悪魔を操れると称して仕えていた。不信に凝り固まった皇帝は、常に苛烈な命令や刑罰を宣告する。シンジビズは、なんとか皇帝の心を変えようとしたが、ゆがんだ鏡のような彼の心は、シンジビズの助言をゆがめ、事態は悪化。それでも何とかしようと皇帝のそばで天使として、徐々に彼の心を和らげる試みに取り掛かった。他のペテン師が登場したと思いこむジェキンズ。シンジビズは、自分の力不足を克服するために、死者の世界ゴーストワールドへと向かう決心をし、ついに地下の女王ヘルと向き合う! むさぼられていく北の大地。狂気の皇帝。だましながら、その発覚に怯え、同時に豊かな暮らしを手に入れるためにあがくジェキンズ。常に虐げられ、とりあえずのやさしい一言だけを頼りに生きるクリスチャン。出口の見えない現実の中で、北の国を守るためにシンジビズは神話の世界を呼び戻すような壮大な挑戦をする。成功しながらも成功とはいえないようなその結末はなんとも言えないが、同時に、人間の力を超えた存在の荒々しい息吹はやはり一つの希望だろう。それにしても、こんな方法でしか希望が語れないとは・・・

ゴーストソング

 

ゴーストソング (ゴーストシリーズ 2)

ゴーストソング (ゴーストシリーズ 2)

 

 皇帝の奴隷の狩人であるマリュータは、クロテンを狩ったときクロテンのような黒髪、雪のように白く、血のように赤い息子が欲しいと願った。心待ちにしていた息子が生まれた夜、魔法使いグズマはその子をもらいに来たが、マリュータは激しい息子への愛ゆえに断固拒否した。だが、息子アンブロージは、成長するにつれて不思議な歌を歌い、物語を語り、他の村人から疎まれる男の子になる。一方、トナカイを狩る人々の村にもグズマがあらわれた。ここでも子どもを求めるが、誰一人応じようとはしない。グループのリーダーの息子で賢い少年<狐にかまれた子>は、グズマに立ち向かおうとしたが、部族全体がオオカミになる呪いをかけられてしまった。夜が来るとオオカミに変わり、夜が明けない冬は人間に戻れなくなるのだ。呪いを打ち破るのは死者の世界ゴーストワールドの鉄の木の中の呪いを埋め込んだ骨が砕かれるとき。そしてそれができるのは魔法使いの跡継ぎになるはずだった男の子のみ。ゴーストドラムを反転させたような展開の中で、アンブロージと狐にかまれた子という魅力的な二人の少年の姿が描かれる。嫌われ者のグズマ、ある意味あわれですね。

ゴースト・ドラム 北の魔法の物語

 

 

 

ゴーストドラム (ゴーストシリーズ 1)

ゴーストドラム (ゴーストシリーズ 1)

 

 1987年カーネギー賞受賞作。女奴隷のもとに来て、女が生んだ娘を跡継ぎにもらっていった魔法使いの女がいた。赤ん坊はチンギスと名付けられ、賢く健やかに育つ。それを知った魔法使いクズマがねたんでもだえるほどの聡明さだった。そして女奴隷の国には残酷な皇帝がいた。即位するために親族をすべて殺したが、当時幼なかった妹マーガレットを殺し忘れた。皇帝は周りから勧められて妃をめとり、子どもができるが、マーガレットは生まれた子は皇帝を倒そうすると予言する。予言を恐れた皇帝は妃を塔の上の小屋に閉じ込める。王子が生まれたときに妃は亡くなるが、王子サファは乳母とともに、そこに閉じ込められて成長する。成長とともに外への激しい好奇心に苦しみ、王子に外を見せたいと願った乳母は、その願いを王に告げたために処刑され、王子は孤独となった。そしてその孤独の叫びがチンギスに届く。チンギスは魔法の力で王子を開放して自分の弟子としてやった。やがて皇帝は病で死ぬが、女帝となったマーガレットはサファを殺そうとするが塔からその姿が消えたことを知る。クズマは女帝に近づき、力を貸してくれればサファをとらえると持ち掛ける。壮大で冷酷な帝国と魔法のイメージ、死の国までもめぐる世界の広がりと、堂々たる神話世界を展開してくれる作品。ただ、読書力がないとこのイメージについていけないかもしれない。

天邪鬼な皇子と唐の黒猫

 

天邪鬼な皇子と唐の黒猫 (TEENS’ ENTERTAINMENT)

天邪鬼な皇子と唐の黒猫 (TEENS’ ENTERTAINMENT)

 

中国で『覇王』とよばれ、猫の王としてのんきに暮らしていた黒猫のおれさまは、人間に捉えられて日本に送られた。天皇に献上され、天皇から息子の定省(さだみ)に預けられる。長年貧乏暮らしをしていたのに天皇になった父子であり、定省もまじめだ。だが、権力を握ろうとする藤原基経の暗躍で定省は気が休まらない。クロと呼ばれるようになった黒猫のおれさまも、右京と左京のネコたちの縄張り争いに巻き込まれてしまう。そのうえ人語がわかり話せるクロは、成り行きで人間の政争にもかかわることになる。強いが権力欲がなく筋を通すクロのキャラや、きまじめな定省とも魅力的で、さらにクロがどうやら項羽の生まれ変わり?と史記の世界を絡ませるところも面白い。ただ、クロの設定が中国から来ただけに、人語というだけでなく中国語・日本語という言語差を理解できたの? が素朴な疑問。モデルは光孝天皇宇多天皇だが、作品中ではこの名前で出てこないこともあり、歴史小説というより、ちょっとファンタジー系の興味で読まれて楽しまれそう。 

インフルエンザ感染爆発

 

 原書は2000年にアメリカで発行されている。1918年のスペイン風邪と言われるインフルエンザの大流行とそれによる多くの死者、世界中に広がったパンデミックについて解説されている。まだウィルスを見ることができる電子顕微鏡がなかった時代、相手は文字通り見えざる敵。通常のインフルエンザと異なり、若者の致死率が一番高いという特殊なインフルエンザであった。そして全世界に流行して、突然収束。その謎を解こうとして、後日永久凍土に埋められた死者からウィルスを採取できないかという試みが行われる。なお、この本の最後に今後パンデミックが起こったらどうなるか? という問いかけがある。そこでは、医学はすばらしく進歩したが、一度にたくさんの患者が発生した場合はやはり対応が困難だと述べられているがあ、現在のコロナウィルス蔓延を見ていると、確かにその通りだと思った。少し前なら他人事として読めただろうが、現在読むとリアルで恐ろしい。