児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

動物のおじいさん、動物のおばあさん

 

2014年現在で国内動物園最高齢クラスの動物たちの”人生”と年老いた暮らしぶりを、飼育員へのインタビューで紹介する。14頭も子どもを生んだカバ、新人飼育員を集中攻撃するプライド高きゾウ、おじいちゃん同士なかよく老後を過ごすレッサーパンダなど、飼育員にとっては「ともだち」だったり「年上の息子」だったり。でもどの飼育員も、野生動物としてのこわさや緊張感を忘れないように接している。それだけに、人間的しぐさをパフォーマンスするゾウアザラシの写真が最後に並ぶのが、結局「かわいい」という読後感になりそうで気になりました。 (は)

地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?

 

地球温暖化対策はエネルギー対策であるとして、1章で温暖化の現状を、2章でさまざまなエネルギーの長所と短所を解説。自分なりのエネルギーミックス(エネルギー源の割合)を提案できるよう導く。

化石燃料(石炭、石油、天然ガス)、再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光、太陽熱、地熱、バイオマスなど)、そして原子力の特徴をとてもコンパクトに示して、これらを選択するための4つの観点(安全性、安定性、経済性、環境への影響)もわかりやすいので、中学生にもできそうと思えます。ただ、非常にコンパクトなので、まさにこれをスタートにしてもっと深く調べたり学んでいく必要があります。

先進国と途上国の対立や産業構造の問題、若者の声が政治に届きにくい世代間のたたかい、日本が石炭火力や原子力を続けようとする矛盾など、さらっと触れている問題の手強さに子どもがめげないように、大人も一緒に考え行動したいところです。 (は)

先生、ウンチとれました

 

腸内細菌の研究者で「動物のウンチ博士」と呼ばれる著者。アフリカ、アジアの熱帯林、砂漠、サバンナ、高山地帯や日本国内の山林など各地に通っては、野生動物の糞を採集。野生と飼育動物で異なる腸内細菌の組成を分析し、保護動物を野生に帰すために必要な細菌を解明しようとしている。現代人の健康問題の解消にも腸内細菌が重要であることもわかってきている。

それにしても、採集作業はなかなか大変だ。例えばゴリラの場合。山に登る→ゴリラを探す→糞をするのを待つ→糞をしたらその場から動くのを待つ→糞に駆け寄って即採取(時間がたって冷えたものはダメ)→培地に少量塗りつけて脱酸素剤を入れた密閉袋へ→夜通し温め細菌を培養、といった具合。

ここで大活躍の共同研究者、土田さやか博士が頼もしい。とにかく時間との勝負。糞に駆け寄る姿や現地アフリカのんきな助手くんに少々イラつく様子が目に浮かび、ついくすっとなってしまう。「役に立つ」ではなく「不思議」「なぜ?」から始まる研究の可能性と楽しそうな世界が広がります。 (は)

きゅうきゅうばこ 新版

 

やけど、すりきず、はなぢ、指をドアにはさんだ・・・から、はちに刺された、ねこにかまれたなどなど、けがの手当てをすぐできるように楽しいイラストとともに解説。これ以上はお医者さんへ、という判断もわかります。「消毒をしない」「ガーゼを当てない」「乾かさない」という自然治癒力を生かす「うるおい療法」を反映した新版(2017年刊)。大人は長年なじんだ方法で対応しがちですが、備えておきたい救急セット(食品包装用ラップも便利!)と、「おとながよむページ」をしっかり読んでおきたいです。 (P)

もりのたいしょうははりねずみ

 

もりのたいしょうは はりねずみ

もりのたいしょうは はりねずみ

 

 小さいけれど頭がいいはりねずみが、くまをうまく出し抜く物語。「もりのたいしょうははりねずみ」は、トラの威を借りるキツネのお話をクマとハリネズミに置き換えたもの。「はりねずみ、まんまとくまにのる」は、ハリネズミが知恵を使ってくまを馬扱いしてしまう話。ハリネズミは賢いが、クマと仲良しでからかってはいるけれどバカにしていない感じがいい。原書は1978年。特にインパクトはないが、安心して楽しめる。

ホッホーくんのおるすばん

 

ホッホーくんのおるすばん

ホッホーくんのおるすばん

  • 作者: アンゲラゾンマー・ボーデンブルク,イムケコールト・ザンダー,Angela Sommer Bodenburg,Imke Korth Sander,佐々木田鶴子
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1993/03
  • メディア: 大型本
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 ホッホーくんは、おとうさんおかあさんといいっしょに屋根裏に住んでいます。にいさんやねえさんはでていったのに、おとうさんやおかあさんといっしょがらくちんなのででていきたくありません。おかあさんが飛び方を教えようとしても、お父さんがねずみの捕り方を教えようとしても「いやだよ、いやだ。きょうは いや。あしたになったら おぼえるから。」といっていつまでもやろうとしません。この「いやだよ、いやだ。」読んであげたら絶対子どもが喜ぶところですね。ところが、ある日屋根裏にネコがやってきます。とべないホッホーくんは、危うくつかまりそうになってしまいます! 
ちょっとザラザラした感じの温かみのある絵も魅力的。

動物と向きあって生きる 旭山動物園獣医・坂東元

 

「ぼくは、人とうまくつきあうのが苦手だ。」と始まる。子どもの頃の経験、転校、いじめ、落ちこぼれ・・・”人間”のおとなへの強烈な不信感(特に教師と獣医・・・)が、動物の世界へと気持ちを向かわせ、昆虫少年から鳥、牛、そして野生動物と向き合う動物園の獣医にたどり着いた。
著者は旭山動物園の現園長。獣医として初めて野生動物と向き合ったときに衝撃を受けた。保護されたヒグマの子が人間からミルクをもらうことを拒みけっして気を許さなかった。「すごいヤツら」と坂東さんに思わせた尊厳ある圧倒的な存在感。ただ淡々と生き淡々と死ぬ野生動物の姿を「生きているから生きている」と中学生たちに講演した後、「少し前向きに生きる気になりました」と自殺願望のあった子から手紙がきたそうだ。
動物の気持ちに立って対等に考える坂東さん、そして旭山動物園。人間から見てのかわいさや満足、かわいそうと思う気持ち、お金になるといった価値観は間違っている。”なかよく”ではなく”調和”だという考え方は、人間同士にもあてはまるんじゃないかと思わされました。中学生に読んでもらいたいです。 (は)