児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

リンゴの木の上のおばあさん

 

写真の中のおばあちゃんしかいないアンディは、友だちがうらやましくてたまりません。ある日いつものように庭のリンゴの木に上ると、そこに写真の姿そのままに、羽かざりの帽子と白いまき毛、花のししゅうの手さげを持ったおばあちゃんが座っていました。2人は遊園地へ行ったり、草原で野馬狩りをしたり、嵐の海を帆船で渡ったり、いろいろな冒険を楽しみます。そんなある日、隣りの家にひとりのおばあさんが引っ越してきました。孫が遠くにいるそのおばあさんとアンディは、一緒におしゃべりしたりお昼を食べたり、花だんをつくったりするようになります。アンディはもう寂しくありません。願ったとおりにしてくれるおばあちゃんと、自分を必要としてくれるおばあさん。2人もおばあさんがいるからです。  (は)

満月をまって

 

ぼくの父さんはかごを作るのが仕事。山の木を薄くはいで丁寧に編み上げるかごは、とても丈夫だ。ぼくが9才になって最初の満月の日、父さんはやっと一緒に町へ行くことを認めてくれた。棒に結わえたかごを肩にかついで山を下り、長く歩いて町へ。商店にかごを納めてから、母さんに頼まれた買い物をした帰り道。知らない男の人たちが突然「山ん中のくされっかご!山ザル!」と大声でどなってきた。家に戻ったぼくは、二度と町へ行くもんか、父さんにも行かないでもらいたい、と思った。納屋へ行って高く積み上げられたかごをけ飛ばした。すると、父さんの仲間のおじさんが来て言った。風は、だれを信用できるかちゃんと見ている、と。ぼくは、山へ行って耳をすました。そして、風に選ばれる人になろうと心に決めた。

100年以上も前。アメリカのニューヨーク州コロンビア郡の山間でかご作りを生業としていた人々の物語。今はもう作れる人はいないのだそうです。 (は)

アイヌ ネノアン アイヌ

 

アイヌ文化の伝承に尽くした萱野茂さんが、自身の子どもの頃の思い出からアイヌ文化を紹介する。2つに分かれる思い出。春夏秋冬の自然を遊びつくし、家族で囲炉裏を囲んで食事、おばあさんがアイヌ語で語る昔話をききながら眠る幸せなものと、和人(日本民族)の侵略による悲しい思い出―主食のサケ漁を禁じられ、住まいのための木を切ることもできず、アイヌの生活文化をまったく否定されたこと。アイヌ(人間)と神は対等だからこそ神を大切にし神からも守ってもらうという独特な考えが、アイヌの衣食住、そして2つ紹介されるおばあさんの昔話にもよく表れている。タイトルは「人間らしい人間になるんだよ」とくり返していたという母親の言葉。和文化とは異なるおもしろさ不思議さ美しさ尊さ、侵略の歴史もしっかり心に留めたいです。 (は)

月へいった女の子 アイヌむかしばなし

月へいった女の子 アイヌむかしばなし

鈴木トミヱ 絵・文 北海道出版企画センター 1986年

 

ずっと昔、働き者の姉となまけ者の妹がいました。ある日姉は、妹に水くみをたのみました。月がのぼる頃になってようやく妹は出かけましたが、2日たち、3日たっても戻りません。姉は妹を探して川をくだります。道々、アメマス、ウグイ、マスの群れに妹の行方を尋ね、最後に会ったサケが「人間たちは私たちを神様として大切にしてくれるから」と教えてくれたのは、月の中でせっせと水をくむ妹。「お月さまは働かなくてうらやましい」と言った妹に怒って、月がさらって行ったのでした。

アイヌの人々は、月の影を、水をくむ子どもの姿と見ます。月の光を受けてこがね色に輝く石狩川にそって、銀の星たちが集まってできたという天の川のいわれも。
以前紹介した『イソイタク 2 カムイを射止めた男の子』には、なまけ者の息子バージョンがありました。 (は)

ちょうちんあんこう

 

ちょうちんあんこうは深い海のそこに住んでいました。ある日たこのおじさんから、黄色くて丸いお月さまのことを初めて聞きます。かくれんぼが大好きで、海の上であそんでいるというのです。お月さまと友だちになりたいな。ちょうちんあんこうは、魚たちにお月さまの居場所を尋ねながらずんずん上っていきました。そしてようやく、夜空に高くうかぶ黄色くて丸いお月さまを見つけます。でも、どうしてもお月さまのところまで行けません。そこへ通りかかったとびうお。ちょうちんあんこうを背中にのせて、海の外へ飛び出してくれました。「おつきさま。かくれんぼしようよ」大喜びではねたとたんに、とびうおと離れて海の中へ。それでも、ちょうちんあんこうはみんなに向かって大得意。「おつきさま みたことないだろ」。今でもちょうちんあんこうは、まだお月さまを知らない魚に話して聞かせたくて、くらい海のそこを泳いでいます。

デフォルメされてなんともユーモラスなちょうちんあんこうと、少し寂しくも感じるラストが、子ども心に印象深い絵本でした。  (は)

ジーク―月のしずく日のしずく

 

ジークは、オオカミ猟師の父親から剣と弓を仕込まれた。その父が亡くなると、剣の腕を見こまれ百人隊対抗の剣の大会へ駆り出される。相手の隊長を結果的に殺してしまったジークは国王を喜ばせるが、束縛を嫌い村へ戻ろうとする。その旅すがら、赤ん坊のころにつぶれた左目は金色をしているらしいこと、それは銀色の右目と合わせて、対立する2国の王子と王女の血を受け継ぐことを示し、自分の存在は許されないことを知る。同時に、長年魔物に生け贄をささげてきた儀式で、親友の代わりに魔物を倒す決意をするジーク。「月のしずく、日のしずく、まじりけなきまざりもの」という言い伝えが意味するところの自分の力に気づき、ひとりで魔物に対峙する。
前半の闘技場の試合は迫力あるが、大魔を倒す最後が少々あっけない。 (は)

アフリカのことわざ

 

アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の地域に伝わることわざ、名言、格言を楽しいイラストとともに紹介する。世界を飛び回るビジネスマンたちが、現地や文献などから収集。”人生”について、”仕事”について、”愛”について、”道理”について、と分類されていますが、中高生の心に刺さるものがありそう。「ゆっくりゆっくり、バナナは熟れる」「シマウマを追っても必ず捕まえられるわけではないけれど、捕まえた者は追っていた者」「バオバブの種は焼かずに噛める歯を持っている人にあげなさい」・・・アフリカの自然や民族の多様性、紛争の歴史からくる人生観、観察眼に発見があります。「宇宙船アポロが月に着陸したとき、そこにはすでにソニンケ人がいた」なんていうジョークも。多くの国で行商するソニンケ人は国外移住率が高いのだそうです。 (は)