児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

日本の絵本 100年100人100冊

 

日本の絵本について、1912年から2014年の約100年間に出版されたものを1作家につき1作品、100冊を紹介する。
冒頭の杉浦非水『アヒルトニワトリ』から、それにつづく大正から戦後まもなくの頃の、色の美しさや大胆さ、モダンなデザインに、特に驚いた。私が知らなかったのだが、日本の絵本をおおいに見直した。

通読すると、時代性や影響を受け合った作家の関係、名編集者松居直氏の存在なども見えてくる。初期の「岩波の子どもの本」で採用された漫画家たち(清水崑横山隆一岡部冬彦)の力の大きさ。「絵本と漫画が袂を分かつ前の、よき時代を思う。」と言われると、たしかに今は漫画が日本文化を代表しているなあと思ったりします。
著者は、編集者、文庫主宰、ちひろ美術館学芸員を経て、新聞や雑誌でのレビュー執筆、ブラチスラバ世界絵本原画展の国際審査員長を務めた。絵本の本文をふくむ図版が豊富なうえ、作り手としての経験や内外の絵本についての豊かな情報、知識による分析が充実している。自身の蔵書から選んだという、個人的思い入れも興味深い。巻末には、日本と世界の絵本年譜(1870-2020)。 (は)

宝さがしの子どもたち

 

バスタブル家は、母親が亡くなって父親と6人の子どもたちに、女中さんが1人。お父さんは仕事に忙しい。子どもたちは、家の財産を取り戻そうと相談し、6人それぞれのアイディアを試みていく。宝が埋まっていないかと庭を掘ったり、新聞をつくって売ったり。山賊になってみたら襲った相手は隣の子だったり・・・まではかわいいが、「週2ポンド、かんたんにもうけられます」という怪しい商売に手を出したり、子どもだけで留守番している夜に泥棒が入ったりには、ハラハラする。

詩作が得意なノエルが、出版社へ売りこもうと出かける汽車の中で、そうとは知らず相席した女性が著名な詩人で、ノエルの詩と事情を聞いて励ましてもらうなど、出会う大人たちが、子どもの真剣さと未熟さを応援しているところがいい。最後は、裕福なおじの屋敷へ引っ越すハッピーエンド。
きょうだいの2番目のオズワルドが書いた物語という設定で、それを「最後までかくしておくつもりです。~ぜったいにわからないと思います」といいながら読者には早々にわかってしまうなど、散りばめられたユーモアが楽しい。 (は)

世界の児童文学をめぐる旅

 

児童文学の名作のなかでも、26の作品・シリーズ・作家について、その舞台やゆかりの地を訪ね、写真とともに物語世界や作家の人生を紹介する。

英国を舞台にした作品には、「リアルな舞台や場所」、モデルとなった人物のあることが多いと指摘。ことに、サトクリフは5作品も取り上げ、「心や肉体に障害をもつ」主人公の成長物語は「生きづらい時代」の若者たちへ「大きな励ましを与え」るだろうとおっしゃっています。その場所に立ったとき、登場人物がその風景の中に見え、そこが2000年前のローマ遺跡であっても、同じ人間としての営みが確かにあったと感じさせる作家の力。物語世界を真に読みこんでいる著者の案内で、大人が読みたくなります。 (は)

思い出のマーニー(上)(下)

 

 

主人公のアンナは、学校で友だちのいないことや無気力に見える態度を、養い親のミセス・プレストンから心配されていました。お医者さんのすすめで、海辺のペグさん夫妻のもとで暮らすことになります。アンナは、古い屋敷の舟つき場や浜辺に、自分の居心地のいい世界を見つけて1人で楽しんでいたある日、マーニーという同い年の少女と出会います。念願だったひみつの友だち。お互いのことをいろいろ話し、すぐにうちとけます。でもマーニーは、急に現れたりいなくなったりする不思議な子で、しかもアンナ以外の人には見えないようなのでした。
冒頭からアンナの苦しく内に向かう心の描写が、衝撃的でつかまれます。養い親のミセス・プレストンとお互い素直に愛情を伝え合えないぎこちなさが、海辺の町に新しくやってきた一家のミセス・リンゼーの仲立ちで、ほぐれてゆく穏やかなラスト。思春期の嵐を越えた先はそんなものかと思わせます。 (は)

とき

 

「いつ?」―宇宙の誕生ビッグバン、「おおむかしの そのまた おおむかし」―恐竜時代・・・1ページずつ、ごくごく少ない言葉と、ある時代を表す絵。時代はどんどん下っていく。「おとうさんの こどものころ」、「わたしがうまれた!」「きのう」「けさ」「1びょうまえ」「いま」。最後は、ベッドで眠っているわたしと、擬人化された三日月が自転車を猛スピードでこぎ去ってゆく姿。「ねむっているあいだにも ときは すぎてゆく」。

1ページあたりの時の流れが、何億年から、年、月、日と短くなるごとに、画面も宇宙から1軒の家、部屋の中とクローズアップされ迫ってくる。時間は前へ前へと進み、1秒前ですらどんどん過去になってゆくこと。まさに「けっして あともどりしない」「とめることは できない」時を体感して、どきりとするラストです。 (は)

14歳のための時間論

 

ゆらぎ理論の研究者が、「時間」についての謎を、主に「心」の側面から説き明かす。日曜日から土曜日の1日1テーマで7章という設定。ゆったりとした文字組で、やさしく語りかけながら、とにかく幅広い話題。物理と哲学の迷宮に入りこむ解説に、すっきりなるほど!とはなりません。でも・・・


・時間が逆戻りしないのは、「宇宙が膨張しているから」。
・太古の人間は周期的な「心臓の一打ちの間隔」を1秒として使っていたらしい。

・人の生体信号はすべて、細胞をつくる原子・分子による1/fゆらぎをしている。
・表現方法の「いちばん根源的なもの」は、言葉や文字ではなく、「音」だった。


・・・と、太古や宇宙、ミクロの世界へ思いをはせ、詩や音楽、胎児の聴覚なども話題にした結果、「時間」は1人ひとりが持っているあなただけのもの、というメッセージは力強く届きました。 (は)

ウサギとぼくのこまった毎日

 

ベネット先生はウサギのユッキーを飼っていて、学校にも連れてきて作文や絵の課題の題材にしていた。でもトミーはユッキーが苦手だ。2歳下で2年生の妹アンジーは大好きだけど。お父さんの仕事は俳優だけど、ときどき仕事がない。そして最近は仕事がない! アンジーは、ベネット先生が親の病気のために学校をお休みするベネット先生から嬉々としてユッキーをあずかってきたけど、結局世話をすることになったのはトミー。そしてユッキーがおしっこをかけたせいで、主演俳優が激怒、お父さんと監督をしているおじさんの映画の仕事は吹っ飛んでしまった。ユッキーと遊んで冷えてアンジーは熱を出した。ユッキーは呪いのうさぎなんじゃないかと思う。ウサギのユッキーの人間なんかかまいなしの態度と、振り回されるトミーの心の動きがよく描かれていて楽しく読める作品。