児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

分解系女子マリー

 

12歳のマリーは、分解して仕組みを調べてはいろいろ作るのが大好きな工学系女子。世界的な有名企業バンス社が優秀な科学のアイディアを持った子どもたちを招待する合宿に招かれ大興奮。バンス社の快適な宿舎と、楽しいプログラム、最終日にはコンテストがあり、最優秀をとれば1年間社長バンス氏の助手になれるという。だが、マリーは何を作ればいいかなかなか決まらない。友だちもできたけど、同室のイングリッドは超感じが悪い! そして尊敬していたバンス氏にはどうも裏の顔があるみたい。会社の秘密を突き止め、自分のオリジナル発明を作ろうと奮闘するマリーの姿は魅力的。でも、どんでん返しまでの伏線がちょっと甘いかな?

少年十字軍

 

([み]5-1)少年十字軍 (ポプラ文庫)

([み]5-1)少年十字軍 (ポプラ文庫)

  • 作者:皆川 博子
  • 発売日: 2015/04/03
  • メディア: 文庫
 

 森で野生児のように暮らしていたルーは、森番に捕まった危機を助けてくれたエティエンヌ一行に興味を持つ。神の啓示を受けたこの12歳の羊飼いの少年は、十字軍としてエルサレムに向かおうとしていて、親のない子と修道士フルクが従っていた。実際に不思議な治癒の力を示す、純粋で優しいエティエンヌ。一行はサン・レミ僧院で、反逆していた助修士の一団に対し、エティエンヌが神の力で修道士たちを解放したことで、一挙に有名となる。感動するまじめな助修士ジャコブに対し、現実主義の助修士ドミニクは、その陰でフルクの企みが動いていることを感じていた。そしてエティエンヌに嫉妬したノワイエ伯4男のレイモンは、自分で胸に十字の焼き鏝をあて、大天使から印をもらったと鳴り物入りで、自分が主導権を握ろうと乗りこんできた。金目当て、名誉目当て、様々な目論見がうごめく中で、エティエンヌだけは、レイモンドに主導権を奪われても、淡々としている。はたして少年十字軍はどうなるのか? 聖なる世界に身をささげるエティエンウと俗にまみれるレイモンド。野生児ルーと、彼と気が合う合理主義者のドミニク。記憶と感覚を失いレイモンの従僕になっているガブリエルは、一行に従う中で、徐々に記憶を取り戻していく。史実の少年十字軍を踏まえ、奇跡と現実を巧みに絡めるようにして現代の私たちが納得できる物語に仕上げている。ラストは、ちょっと甘いかもしれないが、希望の残る明るい作品といえるだろう。

新月の子どもたち

 

目覚めた時にいたのは独房。ぼくは死刑囚レイン、同じ死刑囚たちがみんな「ぼくはしぬ」という中で、「わたしはしなない」と答えた女の子シグに心を奪われる。そして気づけば、教室。小学校5年になったぼく、令は、声変わりに悩んでいる。うまく出ないガサガサの声。そしてこの現実の世界でシグではないか?と思う女の子を見つける。ファンタジーの世界と現実世界が交差するパターンの物語はよくあり、夢の中のトロイガルトという設定はそれなりに悪くないが、イメージ的であまり緻密ではないので、好き嫌いが別れるかもしれない。こちらの世界とあちらの世界の人物のシンクロとズレもちょっと場当たり? うまく出なかった新しい声が出るようになる声変わりを象徴的に使っているところは面白いが、5年生でこれを読む子は少ない気もする。岡田淳さんの『ようこそおまけの時間に』も夢と現実のシンクロだが、小学校5年生に進めるなら、断然『ようこそ・・・』の方。

支える、支えられる、支え合う

 

イランから日本に来て文化の違いに驚き、いじめも受けたサヘル・ローズ。子どもたちが安心して過ごせる場所を作る活動や、親の経済力で未来が閉ざされないためのチャレンジ、病気でも勉強ができる仕組み、施設出身でも未来を切り開く道など、さまざまなチャレンジを紹介している。率直に書いてあって読みやすいが、メッセージを伝える感じの本。ただ、その分、もう少し詳しく知りたい感じもした。これを入口ととらえれば良いのだろう。

Xをさがして

 

カイパーは11歳だけど、飛び級して2歳上の子のクラスに行っている。だが家は貧しい。母さんは元ストリッパーで今はシングルマザー、双子の弟たちが自閉症なのでその面倒をみるので手一杯。ソーシャルワーカーになにかとお世話になってる状態で貧乏だ。クラスでは浮いて友だちがいないけど、カイパーの夢は探検家。でも大人の友だちはいる。いつもおっかないけど、実は面倒見のいいウェイトレスのヴァレリーや公園で会うX(エックス)。Xはスーツケースをいつも抱えていて、秘密警察に怯えて名前も教えてくれないおばあちゃんだ。カイバーがサンドイッチを差し入れしないとちょっと心配。ところがここのところ学校ではトラブル続き、弟のことで悪口をいったティファニーと取っ組み合いをしたけど、先生が叱ったのはカイパー。ティファニーは金持ちのカワイイ先生のお気に入りだから。しかも母さんは大切な弟たちを専門の施設に入れると言い出した。おりしも学校の窓が壊され、その疑いまでかかってしまう。その時はXと一緒にいたのに! しかも母さんは「Xは、娘の空想の友人なんです」といってXの存在を信じてくれず疑ってきた。カイパーはXを探すまでは家に帰らないと決めるが、探しても探しても見つからない・・・。深刻な状況の中のタフなカイパーの姿が魅力的。とはいえカイパーは母さんに不満も持ってケンカもするが、根はまじめで成績優秀。だけど家では家事や弟の面倒をせっせとみていて、いつ勉強してるの?みたいな感じは、ちょっと都合が良すぎる気もした。なんにしても、子どもは大人に守られてまんぼです。無理せずに大人を頼って欲しい。

バンドゥーラ

 

1897年、ミャンマーのジャングルで生まれた赤ちゃん象パンドゥーラ。ゾウ使いのポトケは、この象をかわいがって育てる。パンドゥーラは、賢く、さまざまな言葉を理解する素晴らしい象にそだつ。同じ年、イギリスでウィリアムという男の子が生まれた。動物が大好きだった男の子は、貿易会社の仕事でミャンマーに行き、ゾウたちを扱う仕事につく。パンドゥーラとポケトに出会い、ゾウを痛めつけて従わせるのではなく、子どものころからかわいがって、仕事を教えるゾウの学校を作ることを始め成功させた。木材伐採の仕事はうまくいっていたが、第二次世界大戦がはじまり、ウィリアムは、パンドゥーラたちゾウとともに、戦場に行き、橋をかけたり物資を運ぶ仕事についた。だが、危険が迫る中、山越えをしてインドへの避難も行い成功させるなど、活躍する。だか、最後、パンドゥーラは密猟者に殺されて牙を切られてしまった! 
実際にあった出来事を元にしながら、数を減らしつつある象の問題も述べている。
大型の本で、絵がとても魅力的。読み聞かせには、長すぎて無理だが、絵を見せて紹介すると、借りる子がいそう。

フレディ・イェイツのとんでもなくキセキ的な冒険

 

フレディはおばあちゃんが死んで悲しくてたまらなかった。母さんはフレディが生まれてすぐに死んでしまった。今の父さんは、血は繋がっていないけれどとてもいい父さんだ。だけど、おばあちゃんが、最後の手紙で本当の父さんの名前を教えてくれたので、会ってみたくてたまらなくなる。親友のベンとチャーリーに協力してもらい、Facebookを手がかりに3人で旅に出る。親には、他の子の家にお泊り会に行くと嘘をついて。次から次へとトラブル続き。お金が尽きて、タマネギ早食い大会に参加したり、強盗が隠した盗難品を偶然見つけてしまったり、まさかの教会での奇跡にまで関わってしまったり・・・ドタバタの末に、やっとたどりついた父さんがいるはずの場所。そこで待っていたのは? あり得ない、とあり得るギリギリのあたりで楽しく読ませてくれる。