- 作者: フランシス・ホジソンバーネット,レジナルド・B・バーチ,Frances Hodgson Burnett,吉田勝江
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1987
- メディア: 単行本
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脇訳の出る前の、古い方の少年文庫版。
さすがに、いささか古めかしいという印象はぬぐえない。
表紙絵、字の大きさ、詰まり具合、はハードルを高いものにしている。
「おわびいたします」「わたくし」など、言葉遣いには時代が出る。セーラはとても端正で、いまどきこういう女の子はいないだろう(そのこと自体は決して悪いことではない)と思わせる。ただ、むしろ、セーラの人間像というよりも、こういう人間の上下関係が、いまどきないと思われる。
「考えごとをしていましたので。」と、セーラはいいました。
「さっさとあやまりなさい。」ミンチン先生は、そういいました。
セーラは、ちょっとためらって、それからこう答えました。
「笑ったのは、おわびいたします、それが失礼なのでしたら。」そういってから、「でも、考えごとをしていたことは、わるいとは思いません。」といいました。
「なにを考えごとをしていたんだ?」と、先生はきっとなって聞きました。「考えごとだなんて、ずうずうしい。なにを考えていたのかというんだよ。」
略
「わたくしは、」と、セーラはわるびれずに、しかも、いんぎんに答えました。「先生は、ご自分のなすったことが、おわかりになっていないと考えておりました。」
「わたしが自分のしたことが、わかってないだって?」ミンチン先生は、まったく息がとまりそうでした。
「そうでございます。」セーラはいいました。「それから、もしも、わたくしが王女さまで、そのわたくしを、先生がおなぐりになったのだったら、どういうことになるのだろう、と考えておりました―わたくしは、先生にたいして、どうすればよいかということをです。それからまた、わたくしが、ほんとに王女さまだったら、先生は、けっして、あんなことをなさらなかっただろうと考えていました。わたくしがどんなことをいおうと、また、しようと。そして、また急にお気がおつきになったら、どんなに、おおどろきになって、はっとなさるだろうと―」
セーラには、そのさきのことが、ありありと目にみえるようでしたので、そのいいかたを聞いていると、さすがのミンチン先生も、なにか、ドキンとしたようでした。そのときばかりは、心がせまく、空想的でないミンチン先生も、このずうずうしい大胆不敵な子どものかげに、なにかの力が、ほんとうにかくされているのではないか、と思ったほどでした。
「なんだって?」先生はさけびました。「なにに気がつくというのです?」
「わたくしが、ほんとうに王女さまだということにです。」と、セーラはいいました。「そして、わたくしはなんだって―思うとおりのことができるのだ、ということにです。」