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スターリンの鼻が落っこちた

スターリンの鼻が落っこちた

スターリンの鼻が落っこちた

概要

スターリン時代のソビエト内務省に勤める父を持ち、熱狂的なスターリン支持者である「ぼく」は、明日は「ピオネール少年団」に入れるので嬉しくてたまらない。

ところが、その夜、父親は秘密警察に拘引され、じぶんもアパートを追い出される。知らん顔して学校へ行くが、不注意でスターリン像の鼻を欠いてしまった。犯人探しがはじまるが、名乗り出たのは同じクラスのユダヤ人の少年。両親はすでに刑務所に送られた「人民の敵」の息子だった。

混乱するぼくの前には様々な幻影が去来する。欠けた鼻は、父親を捨てるようにぼくに迫る。父親はかつて妻を密告して死に追いやったのだった。かつて親友だった級友もいまや人民の敵としてぼくをゆすり、罠にかけられた担任は連行される。

すべての免罪と引き替えに仲間を密告するよう迫られたぼく。

しかし、ぼくは学校を飛び出すと、父を求めて刑務所の面会の列にあてもなく並ぶのだった。

評価

読むのは簡単だが、読後感は重い。信じていたものが次々と裏切られ、善意と思われたことが、次々と覆される。それが夢だったら、と願うが、悪夢よりもさらに悪夢のような現実に、うちひしがれる。

ラストは、救いがないと考えるか。少なくとも自分の良心に従った、という点で希望とみるか。著者本人も、結局最後の選択として亡命した。この「ぼく」に残される、最後の手段がそれだろう。

抑圧する体制を支えるのは、自分たち自身であるという冷酷な事実。誰も潔白な人間などいない。

ソビエトという言葉がすでに歴史の本にしか出てこないとしても、そこでいったい何が起きていたのか、を知ることは、今ここで起きていることを知ることにもつながるだろう。

中学生なら充分理解できると思いたい。重いが、勧めるに足る本。

ニューベリー賞オナーブック。