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山のクリスマス

 

山のクリスマス (岩波の子どもの本)

山のクリスマス (岩波の子どもの本)

 

 クリスマス本数ある中で、地味ではあるが、しかし、しみじみといい本だと思う一冊。

残念ながら、いつも在庫はだぶつき気味で、棚から1冊残らず借りられる、という事にはなかなかならない。

 

インスブルックに住む少年ハンシが、クリスマスの休暇に、山の監視人をしているおじさんのところを訪問する。いとこの女の子とたわいもない遊びをしたり、クリスマスの準備をしたり、スキーをしたり、山のくらしを満喫する。

クリスマスのお菓子、訪問してくる3人の王様、イブの夜の礼拝など、チロルの山のクリスマスの風景が目に浮かぶように描かれる。休暇が終わり、街に帰ると、ハンシはすっかり見違えた山の子になっている。

教会の高い塔は山の上からもみえた。きっと、塔の上からは山がみえるにちがいない。ハンシはそう思って上を見上げ、山が少し近くなったような気になる。

 

この絵本、なにしろ致命的に表紙が地味。絵本というにしてはかなり字は多く、読み物と言ってよい。子どもたちがよろこんで手にとるような本ではない。なのに、なぜこんなにひかれるのか。

一つはおかしみ。今回あらためて読んでみても、ついくすくす笑い出してしまう。それも、意味のないゲラゲラ笑いではなく、じわっと効いてくる笑いだ。今はひげのはえたおじさんの赤ちゃんの時の写真を見せられて、おじさんは赤ん坊のときからひげがはえていたと思う、とか、ダックスフントが悲しい顔をしているのは雪の中走れないから、とスキーをはかせてやったらもっと悲しい顔になった(そして矢のように山を滑り降りていく)とか、静かに笑える。

一つはあこがれ。スイスの、古い教会のある街、登山列車、見開きに描かれたまるで、ドールハウスのような山の家、おいしそうな料理、焼きリンゴから、クリスマスの見たこともないごちそうまで。私たちが「ヨーロッパ」についてもっているよさそうなイメージはすべてここにあるのではないか、と思われるような。

一つは鮮やかさ。表紙は地味なんだけれど、内容は本当に色彩豊か。それが計算されてのことだとすれば、表紙が地味だとは責められない。随所に入る挿し絵も半分は白黒なのだけれど、そんなことは関係なく、山の上の青い空を見、夕暮れの美しさを見、クリスマスの金の星を見ます。

 

きっと一押しで、この絵本はもっと借りられるはずだ。もう少しがんばってみよう。