元旦なので、気持ちよくおすすめできる本を紹介したい。
著者は、宮城県のカキ養殖業者。「森は海の恋人」のキャッチフレーズで、森をつくる漁師として有名。著者は子ども時代、カキ養殖の研究所に出入りしていたが、そこでカキのえさの植物性プランクトンが育たないとき「森には魔法使いがいる」と言って、森から落ち葉を集めてくる研究者たちを見る。そして、落ち葉エキスの効果を目の当たりにした。この魔法使いの正体が鉄であることを知るのは、約30年後。生き物は、微量だが鉄がどうしても必要であり、森の落ち葉がそれを供給していることを知る。黄砂の鉄分や森林地帯を経てアムール川の運ぶ鉄が北海の豊かな漁場を育てることも知る。それは物質は鉄化し、宇宙は最後には鉄になるという壮大な科学の世界にも広がる。一か所ではなく、全体が影響しあう環境の問題をわかりやすく描き面白い、震災で養殖のイカダをすべて失いながら再生に向けて歩んでいこうとしている作者を応援したい。