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ちょっとピンぼけ

 

ちょっとピンぼけ (ちくま少年文庫)

ちょっとピンぼけ (ちくま少年文庫)

 

 お正月に、少しは読み応えがあって、あんまり長くなくて、まだ読んでないやつ、と思って棚をうろついていて手に取った。あまりにも有名で、なんとなく読んだ気になっているのだが、ちゃんと読んだのは初めてであった。

いわずと知れた戦場写真家ロバート・キャパの第二次大戦従軍記。従軍カメラマンとしてアフリカ戦線に派遣され、イタリア戦線、ノルマンディー上陸に随行するあたりが描かれる。

本当は、大人向けのフルバージョンがあるのだが、こちらは少年文庫ということで何章かカットされているということである。

 

とはいっても、文章はあまり改変されているようには思えなかった。比べたわけではないので何とも言えないが、子ども向けのリライトではない。というか、これはいったい何年生から読めるのか?第2次大戦の経過から何から、基礎知識がなければ、歯が立たないのでは?まあ、アフリカ戦線がどうしたとか、イタリアが一足先に降伏してからのイタリア半島のしっちゃかめっちゃかとか、世界史を受験していてもやけに面倒くさい部分なので、余計な予備知識を求めてもしかたのないことなのかもしれない。

戦争の経過がどうとか、先がどうなるとか、現場にいた人にはなおのことわからなかったのだろうから、そういう点ではキャパと一緒に、先の見えない戦争につきあえば良いのかも知れず、そういう点では、なかなか興味深い冒険譚である。

ピンキィとの大人の恋の結末とか、さすがに「少年文庫」のぼかし方がしてあるとは思うが。

1978年には、これは「少年文庫」に入る本だと思われたわけだが、今はどうなることやら。

戦場カメラマンというのは、確かに、たとえ敵の前で逃げ出しても銃殺されない立場で、つまり怖くなったらいつでも逃げられるはずなのに、何が彼をそこに踏みとどまらせたのか、というあたりが、一番興味深い。一緒に行く兵士にも、ずばりそのことを聞かれている。

最近の沢木耕太郎のドキュメンタリーでは、キャパがここに来る前の、スペイン内戦時代、代表作の一つと目された「くずれおちる兵士」が、キャパの写したものでも、戦場を写したものでもなかったという話になっていて、それこそ、ここに描かれない「大人の事情」にも興味は尽きないのだが、それでも、キャパという人物に、まずこの本で出会ったなら、間違いなく、彼はいいヤツだと、思えるだろう。