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ゾウと旅した戦争の冬

 

ゾウと旅した戦争の冬

ゾウと旅した戦争の冬

 

概要

 第二次大戦末期のドイツが舞台。16歳の少女リジーは、弟と母とでドレスデンに住んでいる。父親の出征後、母親は動物園に勤務しているが、空襲の際には動物たちを射殺するという命令を受けて、なんとかして自分の飼育している子ゾウを救おうと、夜は子ゾウを家に連れて帰ってくる。そんな中、ドレスデンは大空襲を受け、町は壊滅。一家は子ゾウに導かれるように町を逃れる。脱出先で、撃墜された英空軍の兵士と出会い、共に赤軍の侵攻を避けて、米軍との合流を目指すことになる。はじめは憎むべき敵であった兵士も、一人の人間としてつきあううち、リジーは彼を愛するようになる。

全篇は、今は老人ホームに収容されたリジーが、誰にも信じてもらえない、ゾウとの逃亡劇を、若い親子に語る、という構成になっている。

感想

子ゾウを連れて戦場を逃げる、というちょっと荒唐無稽のような話ではあるが、読んでいて違和感はない。むしろ、子ゾウがいたおかげで、一家が救われたという結末が無理なく納得できる書き方になっていて見事。ヒトラー政権下でも、ごく普通の人はごく普通に暮らしていたし、空襲ですべてが焼き払われるその瞬間まで、多くの人は、ごく身近な事を当たり前に淡々とこなしていただけなのだ、という、最近は日本の戦争物でもよく見かける流れを継承している。

関係者は誰も死なず、きちんとハッピーエンドになるというのは、甘いと言えば甘いのかも知れない。ただ、それを再び、老いたリジーが振り返るところに、苦みはじわりとしみてくる。

戦争の経過や、なぜ赤軍から逃げなければならなかったのか、というような、このての物語で必ず引っかかる予備知識に関しては、後書きなどで一定のフォローがされている。長さも手頃だし、安心して手渡せる内容と思う。