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星のひとみ

 

星のひとみ (岩波少年文庫 (1004))

星のひとみ (岩波少年文庫 (1004))

ホンワカした優しい童話的な話なんだろうと思いきや、なかなかにひねりの聞いた物語がぎっしり詰まっている。ただ漠然と読めば、単純な物語ではあるのだが、いったん深読みをしてしまうともうダメ。どんどん深みにはまってしんみりしてしまう。
スイレン」は、恋愛の奥深さ不条理さなんかを読みようによっては汲み取れる。また、「星のひとみ」なんかは、さらに切ない物語だ。ある夜トナカイの毛皮にくるまれた赤ん坊が、夫婦に拾われて大切に育てられる。しかし少女の特殊な力を、ラップ人の魔術だと恐れる継母の猜疑心により、再び捨てられてしまう。そのことで、良くない災いが降りかかり、少女は神様が与えた幸運のおくりものだと後になって気がつくのだった…。まぁ、こうしてみると単純な寓話のようだが、文体にたまに現れる、人間の心が冷たいものだという前提の語りなど、冷めた部分を読み取ると、気持ちがギュッと痛くなるのだ。不思議な物語だったが、惹きつけられた。