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急げ草原の王のもとへ

「コサック軍シベリアをゆく」の続編というか裏編

概要

「コサック軍~」の主人公だったミーチャが、経験を経た医者として、物語の最初と最後に登場し、旅の途中で出会った羊飼いの身の上話を聞く。

16世紀のシベリア、ロシアが東方に進出してくる時代を背景に、その羊飼い、実はタタールの王子ダリタイの成長が物語られる。

物心つくまで、母親の実家で育ったダリタイは、久しぶりに父グライ汗のもとに帰る。しかし、そこは、交易で栄えながらも、嫉妬と陰謀のうずまく王国であった。

シベリアの盟主クッチュウム汗は、ロシアの東方進出に対抗し、各地のタタールと友好関係を強化しようとつとめていた。そんな父の名代として訪れた王子アマナークは、ダリタイと血兄弟の盟約を結ぶ。

タタールは、一度はロシアのエルマークを撃破したものの、その後も軍事力を背景にしたロシア軍に押されつつあった。

やがて、成長したダリタイは、クッチュウム汗への援軍として、対ロシア戦に参加するが、すでに大勢は決し、タタールは敗北。アマナークらはモスクワに連れ去られる。交易の利権をにらんだグライ汗は、ダリタイに、クッチュウム汗を殺害するように命ずる。心ならずも命令を果たしたダリタイはすべてを捨て、羊飼いとして放浪することとなった。

感想

コサック軍~は、ロシアの側から、シベリアへの遠征が語られていたが、今度は、その逆、タタールの側から侵略される模様が描かれる。

何しろ、落ちぶれた羊飼いが、あの王子ダリタイだということは最初にわかっているので、読者としては、悲劇的結末を承知した上で、タタール族の衰亡を固唾を飲んで見守ることになる。

なので、まあ、読み進めるのが辛いこと。平家物語みたいだ。

でも、それだけにストーリーの深さは、前作に勝るとも言える。勝つ側、負ける側それぞれに言い分と思惑があり、絶対の正義なんてものはない。冷酷な父親にも、それなりの論理があり、ダリタイも、潔白ではいない。ロシア人もただの悪ではないし、民衆からすれば、どっちも支配者としては同じである。

ラストのミーチャの説教は、ややくどいような気もするが、平和、自由、ゆるしといった問題を、一手にここでミーチャに引き受けさせているので、しかたがない。とても現代的な課題を背負った物語だと思う。

とはいえ、対象年齢は、前作よりもさらに上がることは間違いない。