児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

鹿の王 下 還って行く者

 

鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐
 

 幼子ユナは、元気に育ちヴァンの心を和ませてくれた。だが、そのユナがさらわれる。自分たちを故郷から追放した恨みに固まる火馬の民が、病からよみがえったことで狼を操る力を身に着けたヴァンを取り込もうとしたのだ。絶望の中で黒狼病を世に放とうとする火馬の民。その治療法を求めて試行錯誤を続けるホッサル。ヴァンと出会い、互いに惹かれるものを感じ合うサエ。この深刻な物語の中で、ユナがハチャメチャなキャラで笑いを誘います。私の頭の中のイメージは、「ドクタースランプ」のアラレちゃんです。タイトル『鹿の王』は、その力があるために、弱いものを逃がすために戦いの場に出る鹿。ヒーローなどではなく、ただ、力があるために、その役割を追ってしまった哀れな存在として語られるイメージにヴァンが重なっていきますが、ラストには希望が。これじゃなきゃね。

ちなみに、脇役でホッサルのパートナーで、ミラルという女性が登場します。身分違いのため公式には結ばれることもなく、決して美しい人ではないいものの、有能で温かい人柄の医師で、公私ともにホッサルを支えているのですが、このキャラで連想するのは『獣の奏者 外伝』の「秘め事」のエサル師です。エサルは身分違いの相手との恋を断ち切り、独りで自分の生涯の仕事を極めますが、ミラルは非公式ながら、仕事と恋を両立! あれ、ちょっと前進したかも・・・・「秘め事」ファンとしては、うれしくおもったのでした。