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パオズになったおひなさま 2015 小学校中学年向き 課題図書 

 

パオズになったおひなさま

パオズになったおひなさま

 

 愛花の家では、おひなまつりにはいつも、おばあちゃん特製のパオズを食べる。当たり前のことだと思っていたのに、小学校5年になり、クラスでおひなさまのごちそうのをしていた時に、みんなが変だと言うので、理由をおばあちゃんにきいた。そこでおばあちゃんがはなしてくれたのは、よしえおばあちゃんがまだ「よっちゃん」と呼ばれていたころ、大連で過ごした時の思い出だった。

当時大陸に渡ったよっちゃんの両親は、穀物やゴマなどを扱う店を営んでいた。中国人の店員も雇い、地元の中国人とも仲良くしようとして良心的な販売をするお店は繁盛していた。よしえは、はずんで荷車に乗ってしまったゴムまりを追いかけて中国人街に入り込んでしまったことがきっかけで同い年の中国人の女の子リンと友達になる。リンにはお父さんがなく、お母さんが一人でパオズ屋で頑張っていた。それを契機に家族も仲良くなるが、中国人と親しすぎると父さんにはスパイ容疑がかけられる。釈放されてからも拷問を受けて性格が変わってしまった父さんは気力を失い、店も客が減り、ついに内地に帰る決心をする。一緒に雛祭りを祝って楽しかった思い出を忘れすれず、よしえはリンにお雛様を残す。見送りの船に駆け付けたリン親子は、お礼にたくさんのパオズを持ってきてくれた。おいしいパオズの小麦粉は父さんの店の小麦。お父さんの胸にも久々に誇りがよみがえる。
比較的素直な物語で、感想文は書きやすいかと思う。だが、物語の背景や登場人物がシンプルな描写になりすぎていて、実際書くときには背景理解のアドバイスが必要かも。リンのお父さんが死んだ理由は戦争で死んだからかも、とか、逆に早々に引き揚げをしてかえって良かったかも(敗戦後のひきあげはひさん)とか考えてしまった。二人をとりまく男の子の姿など登場人物が没個性的で、アニメの原作のような感じもある。ちなみにおばちゃんが1944ごろ10歳近くなら、おばあちゃんが30歳でお母さんを生んで、お母さんが30歳で愛花を生んだと仮定すると、愛花が話をきいているのが2000年ごろで、おばあちゃんが70代です。戦争体験は遠くなりつつあります。大連の子ども時代の記憶を持つ方が今いれば80~90代、ひ孫が小学5年でもおかしくないですね。