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はじまりのとき

 

はじまりのとき (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)

はじまりのとき (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)

 

 2012年ニューベリー賞オナーブック受賞作。著者の自伝的な作品。北ベトナムの裕福な家に生まれた母は、ベトナム戦争で財産をなくし、南に逃れた。主人公は、三人の兄さんを持つ末10歳の女の子。お使いの時、ちょっと買い物を減らしてあげパンを買ったり、新年のお清めは男の子と言われたことに反発してこっそり兄さんより先にタイルを踏んだりする勝気な子だ。父さんは戦争にいったまま行方がわからない。北ベトナムからのアメリカ撤退のおり、おじさんの手引きで船で国を脱出した。漂流の危機の末にアメリカ軍に救われる。だが、英語がわからないアメリカでの生活の中、からかわれたり、バカにされたりする。成績がよく、難しい本を読めていた自分がバカになったようなショックの中のいらだち。3人の兄さんたちがかばってくれる中、懸命に自分の居場所を獲得していく過程が、詩の形式で描かれる。クリスチャンが優遇されると気づいてすぐ洗礼受けたり(でもお経を唱えている)するしたたかさも持ち、悲惨なベトナム戦争の写真を見て、ベトナムには美しい風景もあると反発する。横書の詩形式が手に取られにくいかもしれないが、主人公の気持ちがダイレクトに伝わってきておすすめ。