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月にハミング

 

月にハミング (児童単行本)

月にハミング (児童単行本)

 

 1915年、第一次世界大戦下のイギリス。シリー諸島の無人島で一人の少女が見つかる。言葉も話せず、記憶を無くした少女が持っていたのはドイツ製毛布とテディベア。唯一つぶやいたルーシーの一言から「ルーシー・ロスト」と名付けられる。衰弱しきった少女は、発見したアルフィと父さんが連れ帰る。ビリーという心の病気を抱えた兄さんを支え続けた経験がある母さんがつきっきりで面倒をみた。ルーシーは、徐々に元気になるが、やはり記憶と言葉を失ったままだった。最初は同情していた村人たちも、毛布のドイツ語がきっかけでルーシーはドイツ人ではない疑いが出ると、手のひらをかえしたようになる。そして村の若者たちが戦争で無残に死んだ知らせがくるたびに、それがルーシーへの憎しみにつながる。この物語と並行で語られるのはメリーの物語。参戦して負傷し、イギリスの病院に入院した父親のもとに向かうため、母と一緒に客船ルシタニア号(ルーシー)に乗ったメリーはドイツのUボートに船が撃沈される。母を見失い、乗った救命ボートも沈み、偶然流れていたピアノに這い上がり生き延びる。偶然それを発見した潜水艦の乗務員たちは、全員一致で軍規に背いて彼女を助けるが、ドイツには連れてはいけず、イギリスのシリー諸島なら人がいるはずだとひっそりにがしてくれた。徐々に明らかになるルーシーの正体と戦争による憎しみ。だが、その中でも、一人の女の子を救おうとする一握りの人々の思い。どちらも家族を大切にするごく当たり前の人間であることが徐々にわかっていく。憎しみの連鎖をどうやって断ち切ればいいのかはモーパゴが意識しているテーマ。だが、ルーシーがドイツ人だったらこれほどきれいに解決しなかったかもしれないという思いに、解決の難しさを感じる。