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空のない星

 

空のない星 (Best choice)

空のない星 (Best choice)

 

 敗戦間近のドイツ。ロシアの侵攻を逃れた避難民が毎日のように街にやってくる。そんな中で、聖歌隊の少年たちは、偶然見つけた廃墟の食糧倉庫で密かに飢えを満たしていたが、ある日、そこで逃げ出してきたユダヤ人の男の子を見つけてしまう。すぐ当局に突き出すべきだと考えるヴィーリー。食糧倉庫の秘密と、男の子への同情からためらう他の3人の少年。そして何としても男の子を助けたいと願う少女ルート。少年たちはそれぞれの思いに駆られる。祖国愛から、兵士に志願したいとねがうリーダー格のアンテーク。戦争で負傷し、合唱隊の指導者となっているナーゴルド先生は、その無意味さを知り止めるが、アンテークには理解できない。このまま負ければ世界が終ってしまうように思いつめている少年たちと、リベラルな姿勢を弾圧されて萎縮している大人たち。そして権力側に立つことで力の行使を楽しむ寮長(校長のような役割)イェーデも、しょせん小物で、ロシア軍が街に入ってきたとき、すでに街の指導者たちは逃げ去ったのを知りがくぜんとする。実話をもとにしたとのことだが、純粋さのために自滅しかねない淵にたつ少年たちと、保身で混迷する大人の姿は、戦時下の日本でもあったことではないだろうか? 敗戦が救いというのは、つらい現実である。