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ビッグTとよんでくれ

 

ビッグTと呼んでくれ

ビッグTと呼んでくれ

 

 主人公トロイは17歳だが、おいおい、お前中2病だな、というキャラだ。身長184cm、体重135キロのデブとして、何をしてもバカにされるだけだと、激しい自己嫌悪の中で生きている。いっそ地下鉄に飛び込んだらいいんだ、と思い詰めていたトロイに声をかけてきたのはカート。伝説の天才パンクギタリストとして有名な彼に一緒にバンドを組もうといわれるのだ。だが、やつは本気か? ギターは天才でも、生活はメチャクチャ。ホームレスのような暮らしをしながら、ドラッグをやっているとしかみえない。単に自分はたかられてるだけ?と不安は尽きない。ちなみに、この本の真の主人公はトロイの父親ではないかと思う。早くに妻を亡くし、男手ひとつでトロイと弟デイルを育てる海兵隊上がりの厳格な父親だ。だが、この父親はカートを受け入れる。トロイにカートが必要な事を見抜き、カートに援助が必要なことも近いする。物わかりのよい、優しい父というタイプではないのに、トロイにドラムセットを買ってやり、カートとの夜の外出に送り出してくれる「酒とドラッグは無しだ」とピシリとくぎを刺しながらも。そんな父に気後れしているトロイが、最後に父親に「父さんは僕を見捨てなかった。僕が太っているのは父さんのせいじゃない。」と、きっぱりいって信頼を捧げるのは、親の立場からすると胸キュンです。早く気づけよ、トロイのバカ!! です。 著者のデビュー作とのことだが、ともかく自己嫌悪の渦の中でグルグルと出口が見えなかったトロイが、自分ではなく周りの世界を見始め、カートと対等に渡り合おうとする姿、それを支える父親のクライマックスに突き進んでいくところは十分読みでがあった。