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封魔鬼譚 1尸解(しかい)

 

封魔鬼譚(1)尸解

封魔鬼譚(1)尸解

 

 宋の時代(1000年ごろ)を舞台としたホラーファンタジー。尸解とは、仙人になる方法の一つで尸(かばね=死んだ体)から魂が解脱することとのこと。主人公は14歳の李斗、大家の息子で第二夫人の次男。長男が画家になるといって家出をしたため科挙の期待を背負って詰め込み教育を受け、幸い記憶力がいいおかげでそこそこのとこに行けているが、優秀ではないことは自覚しているので自信

がない。さらに正妻に息子小李が生まれ、立場は微妙だ。しかも父が急死したため、跡継ぎ問題は大勢の使用人の派閥問題も絡んでもめている。素直は小李とは仲がよく、身を引きたいが派閥がらみで思うようにいかず悩ましい。学友の呂方に愚痴をいう毎日だ。そのころ泉州(東南の港町)には死んだはずの男が殺人鬼になった等の怪奇なうわさが流れ、小李の母は、父の死後怪しい天清教にハマり屋敷には怪しい人物が出入りして小李はおびえている。李斗は、助けを求めて妖魔退治をしてくれるという白鶴観に行くが忙しいと拒絶され、途方に暮れる中で妖魔に襲われ足を食いちぎられる。だが、気付いたとき、裸ではあったがけがはなかった。何がおこったのか? (この後はネタバレ)不老不死の研究の中で、血を与えると体も記憶も再生する媒介となるものが発明され、李斗はそれにやられたのだ。しかも体の中の「それ」は恐るべき力があり、「それ」が目覚めると李斗にはコントロールが効かない。しかも誰でもうまく再生されるとは限らない。いわばフランケンシュタインのような存在だが、その力で悪をたくらむ側と、そうした力をつぶそうという側のバトルに巻き込まれる、という話。気の弱い主人公、友情、美少女勇者など、エンタメ要素満載だが、何となくパッとしないと思ったのは、「宋」という時代の香りがないせいではないだろうか? 現代日本を、背景画だけ中国風にかいてみたけど、異なる価値観や、その時代に生きた人(たとえば異民族戦争の前線でつぶされる庶民の真の悲痛な雰囲気)が伝わってこないので、異世界を楽しむ醍醐味に欠ける感じだ。全3巻なので、後を読んでみたい。