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100時間の夜

 

100時間の夜 (文学の森)

100時間の夜 (文学の森)

 

家出ものがついにこうきたのか! という作品。エミリアはオランダに住む14歳。アメリカに一人で向っている。なぜなら、もう家にも学校にも居場所がないから。画家のママは奇行も多いが、本物の絵を描く芸術家。エミリアとパパは、ママが絵を描けるように守ってきた。パパはエミリアの学校長。なのにあろうことか、パパは、学校一の美少女ユノに何通もSNSを送っていたことでユノの母親から告発されたのだ!(このへんの事情は徐々に明らかになる幕開けが良い緊張感がある)。父親のクレジットカードを使って飛行機チケットや短期滞在場所を確保。未成年が一人で海外に行くときに必要な手続きについてネットで情報を集め準備、という段取りのリアルさはなかなかのもの。だが、ニューヨークの予約先は、まさかのフェイクサイトだった。その住所に住んでいたのは15歳のセスと9歳アビーの兄妹。行き場がなくて立ち往生するエミリアは、同じ建物に住むジム(おそろしくハンサム)がけがでフラフラしているのを助けて彼の部屋に行ったことから、セスたちとも知り合う。セスたちの母親が、たまたま不在だったおかげで、この家に居候させてもらう。折からニューヨークをハリケーンが直撃。クレジットカードの履歴から居場所がバレるも、両親もセスたちの母親も足止めされ、ジム、セス、アビー、エミリアの4人の時間が訪れる。ハリケーンによる被害と、停電。潔癖症なのに手一つ洗えないことでパニック気味になりながらもエミリアは特にアビーのために変わっていく。携帯が使えないという体験にとまどうエミリア。著者は実際にこの停電の際にニューヨークにいたとのことで、電源を求め、wi-fiを囲む人たちの描写はとてもリアル。ついに両親が渡米して父親に向かい合うことになるエミリア。父への非難だけでなく、この事件でネットで袋叩きにあって恐怖を感じた様子も徐々にわかってくる。おもいっきり怒りを吐き出したエミリア父親は事件のため、校長職を辞職。オランダには帰りたくないエミリアに、母親はニューヨークに住もうかと声をかけてくる。セスとのこれからの展開を予想させるハッピーエンドで終了。社会の不合理を怒りながらも、もう一度高校をやり直そうと決意するジム、まじめでしっかり者のセス。ちょっと甘えた気ままな妹アビーと各キャラの組み合わせもいい。なんのかんのといっても、エミリアは恵まれているじゃないと突っ込みたくなる面はあるが(母親が有名画家なら、アメリカ移住もスムーズに認められそうだし、経済的にも安定しそう)、今の子たちにとってのリアルがあるのは間違いない気がする。