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ジャック・デロッシュの日記 隠されたホロコースト

 

ジャック・デロシュの日記 隠されたホロコースト (海外文学コレクション1)

ジャック・デロシュの日記 隠されたホロコースト (海外文学コレクション1)

 

 エマは摂食障害だ。ちょっとぽっちゃり型の自分がいやで始まったダイエットが、今、命に危険を及ぼすレベルになっている。きっかけはおばあたんの死。戦時中に捕虜として農場で出会い、一度は引き裂かれたのに、国境を越えて互いを見つけ出して結ばれた祖父母は、無一文から財産を築き、まわりからも尊敬されている、あこがれで自慢の祖父母だ。だが、死んだ祖母の遺品から出てきた「ジャック・デリロッシュの日記」そこには、アーリア人種の優越を信じ、その思想のために殺された父を尊敬し、自分も同じ道を歩もうとした知的な青年のものだった。フランスに生まれながらナチスに協力し、絶滅収容所で着々とユダヤ人を“処理”することに励む青年。彼は乱暴なことは苦手としながら、忠誠を示すために、幼児と母親をついに手にかけてしまう。そして、彼は、そこで出会ったポーランドの美しい娘と恋に落ちる。この女性こそ祖母だと気付くエマ。だが、この美しい娘は、何が起こっているか知らないふりを選ぶのだ・・・・。絶滅収容所という狂気が、責任を感じない理論家によって粛々と進行していく恐ろしさ。それは、日本の戦後だって無関係ではないはず。さいごの思いがけない真相が恐ろしい。