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きれいな絵なんかなかった

 

きれいな絵なんかなかった―こどもの日々、戦争の日々 (ポプラ・ウイング・ブックス)

きれいな絵なんかなかった―こどもの日々、戦争の日々 (ポプラ・ウイング・ブックス)

 

 絵本作家アニタ・ローベルが子ども時代を振り返ったノン・フィクション。ホーランドの裕福なユダヤ人家庭に生まれるが、ナチス侵攻により危険にさらされる。まず父が身を隠し、次にアニタも弟と共にばあやの田舎に隠れることになる。この姉弟を献身的に支えるばあやが魅力。カトリックとしてユダヤ人に反発を持ちつつ、どんな中でも姉弟を守ろうとし、二人も慕ってやまない。だが、親戚中すべてがゲットーに送られ、偽の身分証明書で生き延びていた母親が田舎に来たことがきっかけで、ついにゲットーへ、一時修道院に隠れるも強制収容所へという体験に追い込まれる。弟と二人、子どもとして安全に暮らしたい、守られたい、おいしいものを食べたいという切実な思い。過酷な中で疑いの塊となり、後から逃亡チャンスを逃がしたことも知る。やっと解放され、スウェーデン結核療養所で大切にされる暮らしを取り戻した満足感。結核が治癒して出される時の不安感、両親と再会するものの、落ち着いたスウェーデンからアメリカに向かうことになる不満など、当時の思いが切々と伝わってくる。この本の魅力は、アニタがかわいそうな子どもではなく、怒っている子どもであることだろう。強制収容所行きの列車の中で、大きいほうがしたくなり、なんとか窓から出すことに成功した満足感。止められてものどが渇くんだ! と水を飲む必死さ、他の収容者への不満、療養所を出ていやいやいったはずのポーランドの子ども用施設で、ポーランド料理を食べた満足感。学校に行ける喜び。絵に夢中になり、褒められたうれしさ、長所も短所もある女の子の生きる力にゾクゾクした刺激を受ける。ちなみに、当時のアニタ一家を受け入れた寛容なアメリカ社会への感謝とアメリカ国民としての誇りが最後に書かれているが、今のアメリカを悲しんでいるのでは・・・