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ぼくのオレンジの木

 

ぼくのオレンジの木 (ポプラせかいの文学)

ぼくのオレンジの木 (ポプラせかいの文学)

 

 舞台はブラジルのリオデジャネイロ。主人公のゼゼーやっと5歳だが、いたずら悪魔。次々にいたずらを思いついて実行してしまうので、近所でも鼻つまみ者だ。早熟で頭の回転が良く、想像力豊か、ひっこしてきた家の小さなオレンジの木を友達にしていつもおしゃべりをしている。だが、父親は失業してすさんでおり、母親は仕事で疲れ切っている。ゼゼーのちょっとしたいたずらに激怒した父や兄に、暴力を振るわれることもしばしばだ。学校の先生は、ゼゼーの頭のよさと、心のそこにある優しさに気づき、大切にしてくれる。ゼゼーもそんな先生の前では、悪いことができない。町一番の立派な車にいたずらしようとしたことで、車の持ち主の紳士と知り合いになり、最初はにらまれているが、ゼゼーのけがに彼が気づいたことで、二人の交流が始まる。クリスマスにプレゼントさえもらえない貧困の中生きなければならないゼゼーの現実にショックを受け、こっそり遊びに連れて行ってくれ、食べさせてくれ、大切に甘えさせてくれた。だが、事故で彼は急死。助けを失って絶望して瀕死の病気となるゼゼーだが、姉の献身的な看護で、なんとか持ち直す。やっと新しい仕事が見つかった父とともに、その地を去ることになる。子どもの守られたい、甘えたいという切ない想い。夢がかなえられたかと思えばつぶされた悲しさが深い余韻となっている。