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オオカミを森へ

 

オオカミを森へ (Sunnyside Books)

オオカミを森へ (Sunnyside Books)

 

 ロシア革命直前のロシアが舞台。自分の権力を誇示するために狼を飼っている貴族が、狼を手放すときに殺すのは縁起が悪いので、森に返す。その森に返させるのが“オオカミ預かり人”という設定で、タイトルにもつながるが、実際には架空の仕事、作者はアフリカでライオンを野生に返すプロジェクトなどを参考に描いたとのことで、それなりにリアリティはあるが、ちょっと都合がよすぎる雰囲気がある。主人公フェオは、オオカミと兄弟同様に育ってきた女の子で、全く恐れていないが、『獣の奏者』のエリンだって、もっと緊張感をもって王獣に接していたぞ! と思う。さて、物語はラーコフ将軍というこの地方に赴任してきた将軍が、恐怖で一帯を支配し、害獣のオオカミを放つフェオの母マリーナを捕らえたことから、フェオがその奪還を図るストーリーだ。将軍の部下だが、子狼の出産に立ち会ったことと、あまりに残酷なラーコフに耐えられなくなった少年兵士イリヤが彼女を助ける。途中、革命の扇動家アレクセイが、フェオを利用するために味方になる。彼は、陽気で明るく、それなりに魅力的だが、子どもたちを襲撃に利用しようとしていくところなど、正直問題あり! と私は思う。大人が動かないところを子どもにさせるのだが、子どもだって反撃される危険はあるし、敵を倒すということは、他の人間を傷つけたり殺す可能性があることだ。物語上は、子どもが頑張って大活躍して悪い大人をやっつける風にすすむが、ちょっとメルヘン過ぎるように感じてしまう。悪い将軍を倒し、ママを取り返し、フェオたちはハッピーエンドをむかえるが、この後のロシア革命の歴史は栄光だけではない。楽しく読めなくはないのだが、いっそ架空の仕事なのだから、架空の世界の物語にして欲しかった気もする。