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アポリア あしたの風

 

アポリア あしたの風 (単行本図書)

アポリア あしたの風 (単行本図書)

 

 舞台は近未来の都内。一弥は引きこもって、部屋の外に出るのを拒否していた。母親がお昼を一緒に食べようと誘うのも拒否し、部屋で食べた。そこに突然の大地震が襲う。やっと這い出し、母親を探すと、崩れた一階の奥でトントンと叩く音が聞こえる。必死に家財をどかすがたどり着けない。そこに巨大津波の警報が鳴り響く。通りかかった男、片桐に助けを求めるが、彼にもどうにもならず、津波から救うために片桐は一弥を無理やり連れて逃げ出す。懸命に逆らう一弥だが、黒い波に追われ、自分も必死に逃げて近くのビルの3階に駆け上がる。母親を見殺しにしたショックを一弥は片桐に怒りをぶつけることで消そうとする。ビルに集まった助かった人々。食料も飲み物も少ない、ラジオも携帯も通じない。絶望的な状況の中で、一弥がなぜひきこもった理由、母を殺したのは自分だという狂乱の思いが描かれる。一人一人が背負っているもの、一弥を探しにくる叔父の健介の必死の思い、極限状況の中で、ともかく生きなければならないという切実さが迫ってくる。読後に振り替えると、甘い描写もあるが、震災を描いて迫力がある物語。