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TN君の伝記

 

TN君の伝記 (福音館文庫 ノンフィクション)

TN君の伝記 (福音館文庫 ノンフィクション)

 

 維新直前の土佐藩足軽の子として生まれたTN君は、折からの維新の胎動に心躍るが、刀で物事を進めることに納得がいかない。外国語を学び、コネがないのに機転と実力でフランス留学を勝ち取る。だが、TN君は悩んだ。世の中が変わったらいいことがあると思っていたのに、一部の藩閥だけが偉そうにしているだけだ! そんな中、TN君はフランスの下町の労働者と付き合う中でルソーのことを知る。日本に帰ってきたTN君は、誰かが良い世の中を作ってくれるのを待つのではなく、ごく普通の人たちが自分で考えて自分たちの代表をきちんと選べることが大切だというルソーの啓蒙思想の紹介者となる。「天皇」の名が出ると物が言えない世の中へのおかしさ、ルソーを知って、上からの押し付けをはねのけようともがき、弾圧の末にテロリズムに走っていく若者を見るつらさ、思想家で啓蒙家だが政治家にはなれないTN君。少しづつ権利が前進するかに見えて、その直前に規制強化が続き、国民は戦争の熱狂に不満を忘れる。見えすぎるゆえに失望を重ね、お金のために妥協する政治家を救おうと金儲けに走ることになる後年の姿。その中でも若き幸徳秋水を導き助けるが、ついに癌となり、余命を受け入れて最後の仕事をする。途中でTN君が誰かは気づいたが、生涯を在野で貫いた彼の姿勢は、名前ではなくその生き方こそが大切であることを教えてくれる気がするこで、ここでも名前はあげない。明治維新ではなしえなかった下からの近代化を進めるために苦闘するTN氏を見ていると、今、ここで起こっていることとオーバーラップしてしまう。