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一〇五度(2018 課題図書 中学生)

 

一〇五度

一〇五度

 

 「イス男」とあだ名されるほどイスが好きでたまらない中学3年生の真が、転校先で初めて出会った自分と同じようにイスへの情熱を持つ早川李々。二人が力を合わせて「全国学生チェアデザインコンペ」に出品することを決意しチャレンジする物語。プロダクトデザイナーとしてのキャリアのある作者だけに、実際の二人の試行錯誤にリアリティがあってとても面白かった。また真の父親が、イスのデザイナーのような仕事を激しく嫌悪し、実際にそうした仕事をしている知り合いがどういう状態だが話を聞きに行かせるところなど、お仕事小説としてもいろいろ考えさせてくれる。タイトルの一○五度とは、居心地のいい椅子の背もたれの角度であり、互いに支えあう人間関係の角度。さらに真の体の弱い弟の存在と、その弟への複雑な思い、女性だというのでイス造りの家に生まれたのにイス造りの腕を評価してもらえない梨々など、いろいろなエピソードがあるが、それらが丁寧に語られていていろんな視点から楽しめる作品になっている。