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リンドグレーンの戦争日記 1939-1945

 

リンドグレーンの戦争日記 1939-1945

リンドグレーンの戦争日記 1939-1945

 

リンドグレーンがまだ児童文学作家になる以前の、一家庭の主婦であったときにつづられた日記です。
子どもの頃に第1次世界大戦を経験し、2度と戦争はいやだと思ったのに、その20年後に再び起こった第2次世界大戦。今度は30代の2児の母という立場で過ごしたわけですが、スウェーデンという中立国にいたおかげで、ある意味当事者ではない余裕の中で、戦況を客観的に、かつ日々の暮らしとともにつづれたこと(季節や自然の美しさの描写は、とても戦時下とは思えません!)、そして後に児童文学作家として人気を博す文才を持ち合わせていたこと、さらには、その人物的信用から国の手紙検閲局で秘密裏に働いたということも、貴重な資料となった奇跡に思われます。
戦前から戦時中のヨーロッパ諸国の利害関係が複雑で、多くの注を読みつつも理解が難しい面もあります。一方、戦時中から書いていた『ブリット・マリはただいま幸せ』や『長くつ下のピッピ』などについて「書くことが楽しい」と記したところは、楽しいという気持ちが日々の暮らしや生きることの支えになることに、普通の日記を読むようにほっとして、単純に共感できてしまいます。
巻末には、1944年に『長くつ下のピッピ』を出版社に送った際の手紙が掲載されています。リンドグレーンのあふれるユーモアと、子どもの持つ能力を信じ幸せな成長を願う信念が表れており、ぜひ読んでいただきたいです。