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あらしのあと

 

あらしのあと (岩波少年文庫)

あらしのあと (岩波少年文庫)

 

 あえて戦時中を書かずに6年後の戦後の一家の姿が描かれたのがこの物語だ。戦争によって狂ったのは破壊や物資不足だけではない。日常が消えた異常な興奮状態を過ごしたことで、穏やかで秩序のある暮らしに戻れなくなってしまっているとい問題が起こっている。そして一家の中では、ヤンが戦時中の抵抗運動の中で犠牲になって命を落としていた。無邪気だったピムもレジスタンスを手伝う経験を得て、今更のんびり友だちと遊ぶ生活になかなか順応できないでいる。しかし、そこにヴェルナーが帰ってきた! アメリカに渡り、アメリカ兵として戻ってきたヴェルナーは、一家に物資援助ができるのを喜んでいる。ミープの息子ロビーが、前作のピムのようにちゃっかりした無邪気な男の子として登場して物語に明るさをもたらしてくれている。なにごとも戦争をいいわけにしないようにしよう、全てのドイツ人をひとくくりにしないようにしようとい一家のお母さんのゆるぎのない姿勢が、少しづつ平和な生活を取り戻す力になっているきがした。ヤーンはピアニスト、ルトは画家としての道を見つけ、ピムも友だちとサッカーを楽しむ日常を取り戻していく。戦争の嵐はなかったことにはできない、だが言い訳にしないという強い意志がこの物語をとても魅力あるものにしてくれている。なお2008年の斉藤惇夫文庫版あとがきは、小学校5年生でこの本と出会った興奮と、この一家と自分を比べて日本の戦争責任について気付いたことをまじめに書いた印象的な内容だった。あとがきまでぜひ味わって欲しい。