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ナチスに挑戦した少年たち

 

ナチスに挑戦した少年たち (児童単行本)

ナチスに挑戦した少年たち (児童単行本)

 

 戦わずしてドイツの傘下に入った祖国デンマーク。そんな祖国に憤慨して自分たちでレジスタンス組織を作ろうと考えた中学生の少年たちグループがあった。そのチャーチル・クラブの一員のクヌーズに取材したノンフィクション。向こう見ずで英雄的で勇敢なことをしたいと願う少年たち、そういう態度ってヒトラーユーゲントと共通するんじゃないか? という疑問も感じながら読み始めたが、一番の違いは自分で決めたことかなと感じた。親にすら知らせずに仲間内で話し合い、お互い張り合ったり喧嘩をしたりしながら、大人がいないから武器を手に入れたのはいいけど使い方がわからないため実験するなどよく無事だったという無茶をしている。逮捕された後、少年たちの罪をなんとか軽くするために「子どものいたずら」で決着をつけようと苦心する弁護士や裁判官の苦労を無にしてクヌーズは「武器はおもちゃじゃない。イギリス軍がきた時に支援するつもりだった」と裁判で叫んで刑務所に入れられる、せっかく牢に差し入れしてもらったスケッチに「女性のヌードを描くな」と注意書きがあったからすぐさまヌードを描きまくって壁一面に貼り制裁受けるという生意気な態度! 子どもっぽいといえば子どもっぽいが、この反逆精神はヒトラーユーゲントとは真逆だろう。銃を撃ちまくることを夢想したり実際の襲撃計画を立てながら、撃ち方が良くわからなかったり敵兵とおしゃべりして、ただのおじさんなのに撃っていいのかと撃てなくなる素直さもあった。正直言って、彼らが人を殺さずに済んで良かったと思う。逮捕された後、大人たちの尋問に反抗したつもりで、結局いろいろ話してしまうというしょせん子どもの情けなさもあった。彼らが刑務所にいる間にデンマークではレジスタンスが国中に広まり、終戦後は英雄として評価もされる。だが、過酷な刑務所での暮らしが彼らのトラウマとなってクヌーズ自身も活動的な一生を送りつつも閉所恐怖症でエレベーターさえ乗れなくなったというのは残酷な真実だ。これは英雄たちの物語ではなく、向こう見ずで反抗的、妥協をこばんで駆け引きができない不器用な素直さを持った少年たちの物語といえるだろう。そういう意味では、現在でも、もののわかった大人を慌てさせるノンフィクションともいえるのではないだろうか。