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さよなら、スパイダーマン

 

さよなら、スパイダーマン

さよなら、スパイダーマン

 

姉さんのローズは、灰になって暖炉の上の壺の中にいる。公園でイスラム教徒のテロにあって殺されたんだ。ぼく、ジェイミーが5歳の時だ。その時ローズと双子の姉さんジャスは10歳だった。父さんと母さんはそれ以来おかしくなった。父さんは公園に行こうと言った母さんを責め続けてお酒ばかり飲み、ジャスはローズの好きだった服ばかり着せられるようになった。今10歳のぼくは、正直ローズのことをあまりおぼえていなくて悲しめない。ジャスもかわいいワンピースに耐えられなくなって、突然髪をピンクに染めてピアスをつけて帰ってきた。母さんは、テロの犠牲者家族の他の男性と仲良くなり、離婚して家を出て行った。父さんは、イスラム教のやつらがいない田舎に行くといって、ぼくらは転校した。だけど、ヘタレなぼくは早々に先生のお気に入りのダニエルにいじめられてしまう。助けて仲良くしてくれたのは、隣の席になったスーニャ。目をキラキラさせたユーモアのある女の子、だが、ヒジャーブをしたイスラム教の女の子だった。引っ越しまでしたのに相変わらず酒びたりで仕事に行かずにローズのアルバムを見ている父さん。会いに来てほしいのに来てくれない母さん。でも母さんが送ってくれたプレゼントのスパイダーマンのTシャツを着て、いつ母さんが来ても見せられるように脱がないことに決めた。ネコのロジャーと姉さんのジャス、そしてスーニャがいなかったら耐えられない。ジャスには彼氏ができるが、その緑色の髪のレオを見て父さんは怒り狂った。そしてスーニャのことを知ったとたん、テロリストだと怒りを爆発させる。父さんのためにスーニャと仲良くするのをやめようと頑張るが、ぼくはさびしくてたまらない。大逆転をするために、ぼくはある計画を思いつくが、そのせいでぼくはある真実を知ってしまった。
ぼくの父さんや母さんへの切ない思い。最初奇異に思っていたヒジャーブを理解して新しい目で見られるようになる変化。ネコのロジャーの死をきっかけに大切なものを失う悲しみに気付き、その悲しむぼくのために一歩踏み出す父さんなど、一つ一つを丁寧に描いているので、テロ被害者というセンセーショナル性に寄りかからない普遍的な成長物語になっている。悲しみや憎しみを越えて前に進めるといいですね。