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家をせおって歩く(月刊たくさんのふしぎ2016年3月号)

 

 著者は、発泡スチロールでつくった家を担いで日本全国を移動しながら暮らしており、その暮らしぶりや各地での出会いのエピソードが、写真や細密なイラストとともにつづられる。
普通、人は家に守られているものなのに、「家を守る」という視点が出てきて、常識を真っ向から覆される感じがおもしろい。発泡スチロールは軽くて加工しやすく、断熱効果も高い素材だが、その軽さゆえ特に風から守る(台風はもちろん、トラックが通るだけでもあおられてしまう)ことに苦労するという。また、家から脚が出て動いているという異様な姿が各地で目撃されネットで評判になり、なんと大阪では自分もマネして家を作ってみたという小学2年の男の子と出会う!子どもや高齢者の方が、普通におもしろがったり喜んで寄ってくる様子がほほえましい。
なんて、ただただおもしろい変わった人だなあと思いながら、一般書の『家をせおって歩いた』(夕書房)を読んでみたら、著者の考えはなかなかに複雑で深く繊細で、笑っていられなくなりました。著者は、東日本大震災の起こった2011年に建築学科を卒業しています。福島で起こった原発事故をきっかけに、定住化社会や速いことがいい社会に対してのアンチテーゼとして「移住を生活する」ことを志したそうです。ハッとさせられる言葉の数々。「東北に入ってからほとんど毎日誰かになにかをもらっている(飲み物、パン、おにぎり・・・)。消費するのに忙しい。」「僕は移動してるほうが、食べ物をもらったり仕事をもらったりしてお金がかからない。同じところに留まっているとお金が減っていく。」絵本にも出てくる、津波の瓦礫で資料館と遊具をつくったワイチさんに見せつけられた”希望”を自分は「人に伝える義務がある」。
たくさんのふしぎ」は、福音館書店編集部に家を置かせてもらったことが縁で、出版となったようです。一般書の方には、編集者の実家でシュルヴィッツの『よあけ』をみて「絵本の力」を感じたというエピソードも出てきます。