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ホメーロスのイーリアス物語

 

ホメーロスの イーリアス物語 (岩波少年文庫)

ホメーロスの イーリアス物語 (岩波少年文庫)

 

 ギリシアのスパルタ国王が、世界一美しい妻をトロイア王の息子に奪われたことがきっかけで始まり10年続いたと言われる、トロイア戦争の末期、両軍が一進一退を繰り返しながらトロイアが落城するまでを描く。
カタカナの名前がたくさん出てくる古代物は苦手でしたが、『夢を掘りあてた人』の流れで読んでみたくなり挑戦。ピカードが散文形式で再話したこの物語は、おもしろく読めました。訳者あとがきに、「アキレウスの怒りを中心に」人物を配し物語を展開しているホメーロスの構成力という説明もあり、なるほどと思いました。3千年の時を経ても、友情や忠義、嫉妬や復讐・・・を描いた人間ドラマは魅力的なのだなと、日本の戦国時代が繰り返し映像化されるのも納得できる気がしました。神の世界や存在が人間界に近くていろいろと口を挟んでくるのも、おもしろいところです。ギリシア軍とトロイア軍それぞれを味方する神がいて張り合ったり、最高神であるゼウスも妻の強い願いをむげにはできずギリシア軍を有利に導いたりと、人間っぽさを感じます。神様なのに・・・とも思いますが、今でもスポーツの試合などで天や神が「味方する」と表現することがありますね。また、男性は武勇、女性は美貌と手芸の能力で評価された時代に、プリアモス王の息子たちの中に「おどったり、ありもしないつくりばなしをしたりするよりほかに能のない」(p318)王子がいたことも、なんだかほっとしてしまいました。