児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

星の旅人 伊能忠敬と伝説の怪魚(2019年課題図書中学生)

 

星の旅人: 伊能忠敬と伝説の怪魚

星の旅人: 伊能忠敬と伝説の怪魚

 

伊能忠敬の初の蝦夷測量の旅の史実を元にした物語だが、要所要所に関連するトピックスの解説が挟まれている。緯度1度の長さを知りたいが、そのためには長い距離を測る必要がある、ということがきっかけで始まった旅。そこに、幕府の天文方としてやはり蝦夷測量に出た父がそこで亡くなったと知らされて、どうしても確かめたくて忠敬に同行を願った平次という男の子(完全に架空の存在)の物語をからめている。ただこの物語は、タイトルが納得がいかない。一応物語の最後のころに“神の魚”という暗号は出てくるが、伝説の怪魚は物語の中でさほど重要な役目を果たしていないし、表紙絵にも魚を描く必要はないように思った。とびぬけた才能はなくても、粘り強く努力する忠敬、軽はずみなところはあるが明るい忠敬の息子の秀蔵、まじめでこれからどう生きていけばいいかを探している平次という三人の物語としてそれなりにテンポよく進んでいる。ただ、歴史物語としては、関所があるというのに平次が従者と簡単に入れ替わってごまかすという対応、アイヌの人たちからの情報収集、クマに襲われても助かるなど、都合よすぎるように感じてしまった。忠敬の努力と平次の一途さをネタにして感想文を書けば、とりあえず書けそうには思うが、物語の深みには欠ける気がする。