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わたしが外人だったころ

 

 15~19歳までアメリカにいた鶴見俊輔さんの個人的体験がつづられる。滞在中に太平洋戦争勃発で日独伊人の入る移民局留置場へ。交換船に乗りブラジル、アフリカ喜望峰経由で2か月半かかって帰国。すぐに徴兵検査を受けさせられ合格すると海軍に志願しジャワ島へ。アメリカ、イギリス、オーストラリアの深夜ラジオを聞き正しい戦況を伝える新聞作成に従事。陸軍が日本の敗戦を隠すことがあったためと言う。しかし胸部カリエスという病が悪化し帰国。病床で終戦を迎えた。
大学時代ホームステイした家では家族の一員として意見も言えたことや、留置場の獄中で論文を書きハーバード大学を卒業したこと。交換船での帰国はアメリカ政府の強制ではなく自ら希望したこと。鶴見さんは「日本が戦争に負ける時、負ける国にいたい」と思ったそうだ。一方、喜望峰で日本船に乗り日本人だけになると、軍人から天皇による宣戦の詔勅を暗誦できるよう教え込まれたこと、日本に着いたとたんの徴兵検査。
これらをみると、日本に比べてアメリカの民主主義をひしと実感する一方、そんなアメリカでもネイティブ・アメリカンやアフリカ系アメリカンに対する人権問題は根深く残っていること。アメリカでも日本でも自分を外人だと感じていたという鶴見さんは、日本人とその外の人という考え方ではなく地球に共に暮らす人々として捉えてみようと、静かに訴えている。
絵本だが、歴史的背景を考えられる中学生以上にすすめたい。