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わたしは女王を見たのか

 

わたしは女王を見たのか (1979年) (岩波少年少女の本)

わたしは女王を見たのか (1979年) (岩波少年少女の本)

 

 エリザベスとジョンの黒人姉弟は、ロスおじさんの農園でひと夏を過ごすことになった。両親に見送られ2人だけで乗った列車の中で姉は、この夏の間お互い「ジーダー」と「トウボーイ」という名で過ごそうと弟に言う。
農園についたその夜、星の好きなジーダーは弟を誘って家の前の芝生で寝ることにした。弟に、夜遅くに現れる夜の旅人の話をしたジーダーは、白くて背の高いものが道を動いていくのを1人で見てしまい怖くなる。翌朝、ロスおじさんから土地を借りて豚を飼育しているテイバーさんと娘のジーリーがやってくる。ジーリーはやせて背が高く(2メートル近く)、深く光沢のある黒い肌、くるぶしまでおおう長い仕事着を着ていた。その表情は凛としていてジーダーは美しさを感じる。実は前の晩に見た白い姿は、夜に豚の見回りをするジーリーだった。ジーダーは、物置にあった古雑誌にアフリカ王族ワトゥツィ族の女性の写真を見つけ、それがジーリーにそっくりだったのでジーリーを女王だと信じこみ憧れの思いを募らせていく。

しばらくたったある日、ジーリーから会いたいと言われ、2人は初めてじっくり言葉を交わす。ジーリーは、確かに母方はアフリカから移住してきたワトゥツィ族だが、自分は背の高いのがとても嫌なこと、また仕事が忙しくて友だちもいないことを話し、ジーリーには「あなたはエリザベスでいていい」と言って聞かせる。ジーダーは、自分は女王だと言ってくれなかったことにショックを受けるが、やはりジーリーは優しくて美しくて「地上で出会うことの出来る最高の女王だ」、たとえ汚くて臭い豚の世話をしていても、と思うのだった。
淡々とした文章の中に、思春期の少女の空想や憧れが美しい描写となってきらめきを放つ。読める子なら高学年から。この年頃にこういう憧れの人を心に持てたら素敵だと思います。逃亡奴隷の祖父をもつハミルトンの処女作。