アラビアンナイト研究者と語り手による再話。北アフリカから中国まで広がるアラビアンナイトの舞台を描いた絵地図や振り仮名のおかげで、子どもが自分で読んでも楽しめる。
最初に、アラビアンナイトの枠物語「シェヘラザード」(シェヘラザードが千一夜の間、王に物語ることになったいきさつ)を置き、よく知られるアリババやシンドバードの物語のほかバラエティに富んだ話を10話。耳で聞いてわかりやすく、かつ描写の細やかさや美しさも残して工夫されている。
創作落語にもなっているという「背中にコブのある男」は、のどに魚の骨がささって倒れた男を死んでしまったと思い死体の処理に困った人々が次々と、医者の家の前、隣家の庭、道端の塀・・・と死体を運んでいくが、誰がこの男を殺したのかという王前での裁判の段になって王さまづきの床屋が魚の骨をのどから取り出し、男はけろっとして起き上がったという話。
「ものいう鳥」は昔話様式で力強い話。王さまと結婚した妹を2人の姉がねたみ、妹が生んだ王子王女を川に流すが、赤ん坊を拾った庭番のもとで立派に美しく成長し、3つの珍しいもの(ものいう鳥、歌う木、黄金の水)を冒険の末に手に入れた後、王さまと遭遇してめでたく宮殿に戻る。
巻末にアラビアンナイトの成り立ちを解説。ヨーロッパに初めて紹介されたガラン版の元となったガラン写本には有名なアラジンやアリババ、シンドバードはなく、ガランが他から付け加えた話だそう。