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片手の郵便配達人

 

片手の郵便配達人

片手の郵便配達人

 

 第二次世界大戦に従軍して早々に左手を吹き飛ばされて除隊となった十七歳のヨハン。故郷に戻った彼は、幸いに入隊前の郵便配達人の仕事に戻ることができた。小さな村々を歩き回り手紙を届ける。戦争で離ればなれになった家族や友人からの手紙を受け取った人々は喜んで彼にちょっとした差し入れをくれる。だが、時には愛する者が亡くなったことを知らせる黒い手紙を届けなければならない。結婚せずに彼を産み、助産師として自活していた自由と独立を愛していた母は、お産の帰りに吹雪の中で亡くなってしまった。今でも時折母が恋しい。山や林を歩き回って黙々と配達する仕事を愛しているヨハン。戦争末期の1944年8月から敗戦直後の1945年5月まで、彼が見守り、彼を見守ってくれている村の人々との交流が淡々とした雰囲気で語られていく。終わりを待ち望みながらもその時に何がおこるのかという不安に駆られる人々の姿、思いがけない愛の日々の訪れとあっけなくも残酷なラストは、声高ではなく、戦争の残酷さを伝えてくれている。