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ぼくたちの船タンバリ

 

ぼくたちの船タンバリ (岩波少年文庫)

ぼくたちの船タンバリ (岩波少年文庫)

 

 長い船乗り生活を終えて故郷に帰ってきたルーデンに故郷は冷たかった。本来彼が受け取るはずだった遺産を返せといわれるのを恐れた村人たちは、彼をあらぬうわさで中傷した。だが、ヤンはそのルーデンと仲良くなり彼の船タンバリで何度も海に連れていってもらった。だが、今、ルーデンは亡くなり、船を売り払わないことを条件に村の漁業組合に残したが、ルーデンを下宿させていたマチルデは、自分にも遺産をもらう権利があるとしゃしゃり出て、拒絶されると、遺言状はにせものらしいという嫌がらせのうわさを流した。だれもがうんざりしてタンバリは放置され、荒れていく。だが、ヤンはそれが耐えきれず、なんとかして壊れ始めたタンバリを修理して海に浮かべたいと願った。ついに親友のヘンドリークや、気になる女の子ヴィープケも巻き込み、修理チームを作ろうとするが、クラス一体格がいいハンノーとは対立、大人の責任者になって欲しいと頼みに行った先生からは「船のことは何もわからない」と断られてしまう。一方、ヤンの父は衰退する漁業を守ろうとして組合を指揮して港の沖合に大ヤナを作りあげるが、一向に魚がかからずに組合員から冷たい視線を浴びている。だが、やっと大量のニシン漁に成功する。そして暗礁に乗り上げられかけた子どもたちを救ったのはカスバウムだった。アル中気味だが有能な船大工。ヘンドリークの父でもある村長が、子どもたちの夢の実現とカスバウムの立ち直りのきっかけのために動いたのだ。カスバウムの指揮で、壊れかけていた船は命を取り戻していく。激しく対立していたハンノーも、実は仲間に加わりたくてたまらなかったのだが、カスバウムの口添えで、大きな戦力として迎えられる。だがそんな折、漁業組合の期待を集めた大ヤナが嵐で根こそぎ壊れ。設置にかかった多額の費用が問題視される中で、「タンバリを売った金で穴埋めをすればいい」という意見がささやかれるようになる。ヤンの父とカズバウムは激怒するが、父の窮地を知っているヤンは、タンバリを手放そうと考える。だが、それまでタンバリ修理のために働いてきた子どもたちは納得できない。タンバリは進水式を迎え、もう漁業組合が売り払うことは既成事実扱いをされていた。だが、その夜。ついに耐えきれなくなったヤンはヘンドリークとヴィープケを連れ、三人でひっそりと海に漕ぎ出していく。閉鎖的でエゴイスティックな村の雰囲気、タンバリでの冒険への熱意。仲間だけで固まりたい思い、仲間割れ、非情でリアルな雰囲気の中でのヤンの船へのあこがれの思いが切ない。