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どこまでも亀

 

どこまでも亀 (STAMP BOOKS)

どこまでも亀 (STAMP BOOKS)

 

 ホームジーは高校生。自分の体内の細菌に殺されるイメージに取り付かれると、そこから抜けられなくなり、カウンセリングと投薬を受けている。だけれど、薬は自分を変えてしまうのではないか? 薬で保たれる自分とは自分なのか?  パパは突然死で死んでしまい、学校の教師をしているママは、ホームジーの力になりたいと愛してくれている。親友のデイジーは、いつも元気いっぱいで、スターウォーズのチューバッカのサブストーリー作家として、ネットではそこそこの好評をはくしているのだが、経済的には苦しい。デイジーの夢は大学進学。そのせいもあってとんでもないことを思いつく。街一番のやり手の事業者ディヴィス・ピケットが、収賄容疑で逮捕直前に行方不明になった。警察は懸賞金を出している。その懸賞金をいただこうというのだ。実はホームジーは同名の息子デイヴィットと幼なじみで家は川を挟んで向かい合っている(ただし、ホームジーは川があふれる貧乏人側だ)。手がかりをえようとデイジーにせっつっかれ、ホームジーは久々にデイヴィットと再会する。弟の13歳のノアと共に、通いの使用人と取り残されているデイヴィット。懸賞金目当ての昔の友人が急に声をかけてきた、といいつつ彼は親切だった。ホームジーが、自分の殻の中に閉じ込められると混乱すること、だからこそ他の人間の詮索などする余裕がないことを知っているからだ。互いに惹かれるものを感じて思わずキスするが、次の瞬間にはキスの唾液からの病原菌感染の妄想に襲われて続けられないホームジー。偶然手がかりを発見した彼女は、警察への口止めだとデイビットからお金を受け取る。彼女は返したいが、進学資金が必要なデイジーには貴重な資金だ。デイジーの恋人の出現、触れ合うことは怖がるホームジースマホ越しのデイヴィットとの心のやり取り、そして偶然デイジーが書いたネット小説を読んだことで、ホームジーは周りを見ることができない自分がデイジーに疎まれているのではないかと気づく。パニックの中で車の運転をミスして入院するホームジー。体の中の細菌たちの妄想の螺旋に閉じ込められる中で、世界は亀の上に乗っていて、そのまた亀の下にも亀がいる。どこまでも亀が続いていくという中国の世界観を知って、自分も同じ世界にいると感じる。うまくいっては揺り戻しがある精神を抱えながら、少しづつでも生きていこうとする主人公は、思春期の全ての若者と共通しているといえるだろう。デイビットの父の行方を彼女とデイジーはつきとめてしまう! それをしらせたデイヴィットが下した決断、と最後まで物語の展開にハラハラさせられる。