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男子が10代のうちに考えておきたいこと

 

男子が10代のうちに考えておきたいこと (岩波ジュニア新書 900)

男子が10代のうちに考えておきたいこと (岩波ジュニア新書 900)

 

 社会学の視座から「普通」や「当たり前」とされる常識を疑う考え方を、高校生男子に向けて説いていく。とても根深く難しい問題を扱っているが、テーマに関連する人気芸能人の姿やドラマ、漫画、小説での描かれた方を例示するなど興味を引く。
性別役割分業といったジェンダー問題は、女性側からその社会的不利を論じられることが多いが、「女性を差別することで、男性が不自由になっている側面がある」と著者が言うのは全くそのとおりだと私も常々思う。でも、本書を読むと、男性であるがゆえのしんどさ、男らしく父親らしく社会人らしくを求める社会の目、それは私たち1人ひとりの目なのだということに改めて思いが至ります。
例えば、著者の言う「平日昼間問題」。父親が平日の昼間に子どもを連れて公園や児童館へ行くと、そこには母親と子どもばかりがいて「この人、仕事はどうしたんだろう」という目で見られ居心地の悪いこと。著者は息子を予防接種に連れて行ったときの医師や看護師の自分に対する態度が、いかにも育児について半人前扱いなことに嫌な気分を味わい、女性が社会で一人前扱いされない気持ちがわかったという。
うちの文庫も母子での来庫がもちろん多く、お父さんが来ると「文庫デビュー3人目!」などと心の中でカウントしてしまうくらいです。でも、母親たちの井戸端会議のようになっている状況に黙々といるお父さんに、つい「お母さん方ばかりで大丈夫ですか?」と声をかけると「いや、全然!」といたって自然体です。
そうなのです。男とか女とか、障がいがあるとかないとか、外国人とか性的マイノリティとか、分けたり比べたりするのではなく、身近に接する1人ひとりを見ていくと、意外と世間の常識(思いこみ)に当てはまらない人がいるんだなあということがわかります。
著者自身も、幼い息子のいる家庭を大切にしたいと仕事を減らし、その分収入が減ることを割り切っていて、男社会の解決策を示せているわけではありません。でも、1人ひとりの考え方次第だよ、ということを懸命に伝えています。      (P)