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変化球男子

 

変化球男子 (鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち)

変化球男子 (鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち)

 

 シェーンは両親が離婚しているけれども、ごく普通の12歳の男の子だ。親友のジョシュと野球に夢中で、仲間からもピッチャーとしての腕を認められている。気になる同じクラスの女の子マデリンともいい感じだ。だけど大きな秘密がある。そう、シェーンは間違いなく男の子なのに、なぜか体は女の子なのだ。12歳位から二次性徴が始まる。女の子の体に変わっていくのは耐えられないから男性の体に近づくためのホルモン治療を始めたい。そのためにはサンフランシスコまで行かなきゃならない。離婚した父親と合うのも目的だけど男の子になる方が重要だ。大切な試合を放り出してもどうしても病院に行きたい。母親はシェーンを理解してくれているのに、父親はまだシェーンは男勝りの女の子という枠から抜けきれていない。そしてギリギリになってホルモン治療への懸念を言い始めた。この秘密がわかるのは34p目。それまでふつうにシェーンを男の子として読み進めていただけにドキリとする。そして、自分は男の子なのに、なぜ女の子扱いされなくてはいけないのかと感じながら成長したシェーンの過去。自分が他の子と違うと気付いた恐怖。それを打ち明けるためのハードル、そして現在の学校で女の子だった過去がいつバレるか、と感じる恐怖をシェーンと共に味わうことになる。全面的に味方になってくれる母親、女なのに男の子に生まれたために辛い思いをしたアレハンドラは、シェーンを支えてくれるが、敵の野球チームのニコに秘密をばらされてしまう。きちんと理解してくれる校長先生や、ピッチャーとして何も問題ないと言ってくれる監督。だが、せっかくうまくいきかけたマデリンからは別れを告げられ、真実を打ち明けることができなかった親友ジュシュから信じられないという視線をあびてシェーンは逃げた! 性同一障害の主人公の追い詰められた感情が伝わってくる物語展開は説得力がある。自分の身近に同じような人がいた場合への理解の鍵ともなってくれる作品だと感じた。