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その声は、長い旅をした

 

その声は、長い旅をした

その声は、長い旅をした

 

 天正遣欧少年使節の史実をもとに、天の声を持つ2人の少年の時空を超えた交感を描く。
藤枝開が所属する四番町少年合唱団は聖歌隊が始まりだ。ある日、同じ13歳の船原翔平が長崎から転入してきて、その高音域の美しさと絶対音感でみんなを驚かせる。ライバル意識を持つ開は、声の響きを確かめるのにいいと先輩から聞いた礼拝堂へ行ってみる。それは町はずれの「刑場の森」にあってみんなから恐れられていた。ところがそこには翔平が先にいて、見えないもう1つの声と美しい歌を響かせていた。一方翔平は度々みる夢に悩まされていた。波の音、日なたの匂い、ミーゼレレと歌うだれかの声。そんな中、秋の定演のテーマが発表される。1500年代後半に遠くローマまで旅した4人の少年たち「天正遣欧少年使節」だ。初めて知る話。翔平は先生からの課題を調べるうち、祖父が歌っていたことばの意味、隠れキリシタンの祈り、そして自分の存在意義に思える高音が出なくなる日への恐れさえも、祖先からずっとつながっていることに気づく。
物語はもう1つ、コタロウを主人公にした天正時代の場面を入れこみながら進む。貧しい身分ながらもその美しい歌声で遣欧使節に加わったコタロウは、ローマ教皇の前で歌うことは叶わなかったのだが、四番町少年合唱団の定演本番に変声してしまった翔平に替わって、開とのデュエットパートを歌い上げたことで夢を叶える。少年使節のことや、隠れキリシタンが唱え継いだ「歌オラショ」とグレゴリオ聖歌との関係、豊臣秀吉御前演奏など、さらに深く知りたくなります。  (は)