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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

石井桃子集7 エッセイ集

 

 立派な箱に入って本棚に収まっていたこの本を久しぶりに読みました。かなりかしこまった装丁ですが、意外とソフトカバー版生活随筆シリーズ(河出書房新社)よりも楽しめました。厳選された”珠玉の”エッセイ集だからでしょう。

子どもや子どもの本について、バートンや井伏鱒二など内外の作家との交流は石井桃子さんならでは、何気ない暮らしの中に感じたこと(庭の花、一緒に暮らす犬やねこ、電車の中で見かけた人…)には親近感がわき、間にはさまれる創作短編に深い余韻を味わいます。

戦中に「クマのプーさん」が増刷されなくなった理由の1つが「不用不急」の子ども向けのお話だから、という言葉がつい気になってしまう時節柄ですが、そうでなくても子ども向けのお話が「不用不急」とされる状況はとても恐ろしく思います。さらに、今だからこそはっとしたのが「学校ではできない勉強をしているところですよ」という言葉でした。アメリカの家庭のしつけについて見聞をつづった「わが友ビル」に出てくる母親の言葉。日本ではいま学校で学べない日々が長くなっていますが、こんな状況にもきっと学びがあるはず。おろそかにしてはいけない子ども時代のために大人がしっかり頭を使わなければと、石井桃子さんの文章を読みながら考えました。
ちなみに本書は、石井桃子さん91歳、かつら文庫40周年の年から刊行された「石井桃子集」の第7巻目ですが、現在は増補版が岩波現代文庫で出ています。  (P)