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王の祭り

 

王の祭り

王の祭り

  • 作者:小川 英子
  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: 単行本
 

16世紀、日本は戦国時代を終わらせるべく織田信長が全国の統一に向かっていた。一方、イングランドではエリザベス女王が自分の結婚相手をなかなか決めないことで外交を巧みに進めていた。本来なら出会うはずがない二人が、妖精の魔法で出会うというファンタジー。とはいえ主人公はウィルことウィリアム。やり手の手袋屋の父の下で、夢見がちでボーっとしていることで友人や親からも認めてもらえない男の子だ。祖母から聞いた妖精を捕まえる魔法を試し、偶然に妖精パックとのつながりができる。女王様が来ている街の祭りを見たいと願い、パックの策略で、女王の手袋を作るために父と街に向かった際に、旅一座のピンチヒッターとして御前劇に出ることになったあげく女王暗殺の陰謀に巻き込まれ、妖精の馬車で女王、劇団のハムネットと3人で日本にたどり着き、信長と出会うことになるのだ。一方日本では旅一座の娘、お国が父とは違う新しい芸をしたいと願いながら、戦乱の中で生きぬいていた。折からの本能寺の変の勃発。女王やウィルたちは、逃げてお国たち一座に匿われることになる。どうすればイギリスに帰れるのか? パックは“願い花”を見つければよいという。だが、ハムネットには隠された顔があり、一行に危機が! 仕掛けが細かく、読んでいるうちに、この時代の有名人に気が付く趣向でなかなか楽しいが、それぞれの登場人物は、16世紀の価値観の中でリアルに生きている人物というより現在の私たちのような感じがする。その分読みやすいけれども、ファンタジーとしての異次元の迫力がないのは残念。歴史好きの中学生には読みやすいし、これをきっかけにして本当の16世紀について思いをはせる契機になればよいと思う。