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スローモーション

 

スローモーション (ポプラ文庫ピュアフル)

スローモーション (ポプラ文庫ピュアフル)

 

 高校生になったばかりの千佐はゆうつだ。傷害事件で捕まった兄一平のせいで、早々に不良のレッテルを貼られた。結果、八木玲子率いる遊び人グループの中で毎日をおくっている。家では教員の超厳しい父親と、専業主婦の気の弱い母親の間で、フラフラとニートをしている兄を持て余している。兄とは母親が違う。兄を産んだ母親は、今はデザイナーとして成功して、兄に自分のブランドの服を送ってきたりお小遣いをくれているようだ。美形の兄は、オートバイの暴走事故の後遺症で足をひきずりながら、カメラを持ってフラフラしている。そんな時、クラスでいつも孤立している周子の姿が目に留まる。常にマイペースでゆっくりとしか動かない周子には、真偽はわからないが父親が殺人者だという噂があって、誰も近づかない。だけど、その動きはきれいだ。そしてなぜか、彼女と会話を交わすようになり、気が付けば兄が一人暮らしの彼女と暮らし始めていた。自分ではない他の人物のせいで追い詰められていく不安。だが、自分の中にも恐ろしいものがあるかもしれないという恐怖。それにしても、千佐の母親のキャラクターが、ただの気の弱い専業主婦なのが残念。千佐、周子、一平のシンプルな物語で誰にでも読みやすいけど、その分、もう少し深く読みたい佐藤多佳子ファンには物足りないかもしれません。