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フランダースの犬

 

フランダースの犬 (岩波少年文庫)

フランダースの犬 (岩波少年文庫)

  • 作者:ウィーダ
  • 発売日: 2003/11/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

表題作と「ニュルンベルクのストーブ」の2編を収める。どちらも街並みや自然の風景描写が繊細でとても美しい。
フランダースの犬」はアニメの印象があまりにも強いが、文章で読むとなお悲しみが深い。少年ネロと老犬パトラッシュの貧しい暮らし、絵の才能やそれを認めてくれる少女との恋。クリスマスの朝すべてが報われるには遅すぎた結末は、悔やまれて仕方がない。
一方「ニュルンベルクのストーブ」は芸術を愛する少年の話として共通するが、こちらはハッピーエンド。母を亡くし体の弱い父と10人きょうだいで暮らす少年アウグスト。一家の自慢は芸術家アウグスティン・ヒルシュフォーゲルの名を冠した堂々たる陶器のストーブで、とりわけアウグストはこのストーブを愛し心の支えにしていた。しかしある日突然父親は、借金の返済にあてるため小賢しい商人に二束三文で売ってしまう。アウグストにとってヒルシュフォーゲルとの別れは我が身を裂かれるかのよう。ただ離れ難い一心でストーブの中に隠れこんだアウグスト。ストーブが売られた先はなんと王宮で、若き王は中から出てきたアウグストの話を聞き、ヒルシュフォーゲルの価値に見合う代金を父親に与え、アウグストをストーブ係として雇い絵を学ばせることも約束したのだった。こちらは感傷的ではなくアウグストの行動に引きこまれて読めます。(は)