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じりじりの移動図書館(ブックカー)

 

移動図書館ミネルヴァ号に乗って今日もやってきたのは、キッチリとスーツを着た館長さんと無表情で黒い制服姿の言葉を話さない運転手のおねえさん。じりじりと、目覚ましのような音が図書館のはじまりと終わりの合図。異なる作家の短編連作のため、作品によっては冒頭で「口をきいたことがない」おねえさんがふつうにおしゃべりしているものもある。個人的には、現実に移動図書館をきちんとやろうと思ったら、スーツと革靴は動きづらいと思った。よほど貸出が少ないのか? 「本の続きは霧の向こう」広嶋玲子:は中で本に夢中になっているうちに移動図書館が発車してしまい。気づいたら本が禁止された世界に紛れ込んでいて、館長さんと一緒に本を救う仕事を手伝う健太の話。よくある話かなとも思うが比較的まとまっている。「ヤンメを探せ、伝説を救え」まはら三桃は、離島に住む広青が、伝説を探しにきたという移動図書館の人を手伝うことになり、ぼけてきたと心配しているおじいちゃんがいつもさがしているヤンメという言葉がヒントになる、という物語だが、ヤンメの意味がわかると、それを探し回るというのも不自然な気もした。「スケッチブックは残された」濱野京子はうっかり中にいたまま発車した文香が、過去の戦前の世界に行って絵を描きたいと言っている男性と出会い、スケッチを東京の友人にあずけようと考えているというのを、東京大空襲を考えて、ここに置いておいた方が良いとアドバイスする。現在に帰ってきて、その人が画家になり、スケッチブックも焼けなかったことを知るはなし。「AIユートピア工藤順子は、やはりうっかり中にいたら未来に行ってしまった博人の話。戦争や貧困を無くすためのAIの管理が思想統制に及んで、紙の本がなくなる(でも隠れて読んでいる人がいる)ことを知って、現代に戻った時に未来を変えようと思う。「サイレンが鳴っている」菅野雪虫は、異世界から来た二人の男の子と出会い、彼らが移動図書館の館長さんに助けられるのを目撃する話と義理の父親とうまくいっていない話が語られる。年下のイケ面なので無職で一日中家でゲームしている父親と、それをせっせとかばう母親を見ていて嫌になる気持ち。二人と出会い、反抗してもいいと思い定めて、母親が言って欲しがっていることを忖度して言うのではなく、自分の言いたいことをきちんと言うようにかわるところはちょっと面白かった。

全体的に作品は平凡。設定を活かしきれていない気がした。